和田竜「村上海賊の娘」を読む

  上下巻合わせて1000頁、上巻は友人から頂戴し、下巻は図書館で借りて読んだ。瀬戸内海に実在した村上海賊が毛利家の要請で大阪の石山本願寺へ10万俵の米を届ける。しかし、織田信長はこれを阻止せんと泉州の海賊、眞鍋一族などを使って合戦となった。その顛末を描いた時代劇、歴史教科書で学ぶ「石山合戦」の一部であります。


上巻の半分程まで読み進んだとき、この作品はコミックで読んだほうがいいのでは?と思いつく。(コミック版もある)結局は最後まで活字を読んだのでありますが、話のくどいのにはウンザリしましたね。アクションものなのに人事の解説が続いてなかなか前へ進まない。著者は大量の歴史資料を読み込んでいるので、そのウンチクのあれこれを披露したくて、つい過剰な説明をしてしまう。で、話が進まないのであります。


なのに、本願寺や近辺の砦、要するに合戦の地理的な説明があいまいで戦場としてのロケーションが描けていない。木津川海戦といいながら、どんな風景なのかかいもく分からない。地理ファンとしては不満が募るのであります。著者が16世紀の大阪の地理、地形の概念をもてなかったからでせう。文献資料だけではリアルな風景は想像しにくいのです。


下巻最後のヒロイン(村上海賊の娘)とヒーロー(泉州海賊のリーダー)との一騎打ちなんか延々と何十頁も続いて「ええ加減にせんかい」と読み飛ばしたくなります。劇画を文字にしてるだけで文学的なネウチなんかありません。しかし、コミックファンがこれを読めば「文学作品を読んだ」と思うかもしれない。


泉州海賊の出番では泉州弁の会話が誇張されて書かれ、面白いけど、どうして著者は泉州弁を学んだのでせう。大阪生まれだけど赤ちゃんのときに広島へ引っ越してるからネイティブな泉州弁は身についてないはず。身分差があっても敬語を使わないというような感覚で泉州人のキャラクターづくりをしている。各地から兵士が集まるのだから、全部標準語で会話させたら退屈する・・そんな意図があったのかもしれません。
 著者の全力投球ぶりは十分感じることができる。しかし、読後感は「なんだかなあ」のB級時代小説でした。(注)本書は<2014年度本屋大賞>受賞作品(2013年 新潮社発行)