朝井まかて「すかたん」を読む

 中央図書館へ行くと、たまたま朝井まかて氏の講演会があったので聴講しました。終了後に著書の頒布があり、サイン会もするというので、つい列に並んで買ったのがこの本。著者は大阪出身の作家、「恋歌」で直木賞を受賞しています。60歳くらいのスリムなおばさんです。書名の「すかたん」はドジ、間抜け、何をやっても失敗する駄目男のことを指す大阪弁


内容は時代小説。知里という江戸育ちの女性が縁あって大阪で暮らし、天満の青物市場の大店で女中奉公するうちに主の若旦那に見そめられ・・という、何と言うことのない筋書きであります。基本的には恋愛モノなのですが、青物店が舞台だから、食べ物の話がいっぱい出てくる。種類だけでなく、レシピ(江戸時代の)や味わい方まで、それはもうぎょうさん登場するのであります。さらに、ヒロインはあの「田辺大根」の再発見者という設定になっていて、これは小説ならではのオマケでありませう。


登場する土地が、天満、船場、難波、天王寺、田辺あたりで、これらの描写をええ加減にすると、駄目男のようなイケズにすぐ「それ、ちゃうやろ」といちゃもんつけられるから、距離感や徒歩時間まで無難に書いています。というか、著者は地図好きでもあるらしい。でも、自分の知ってる町が舞台の物語というだけで親近感が湧くものです。もし、これが江戸の町で、かつ、旧地名で説明されたら皆目興味が持てないでせう。


読み終わって、ひとつ「!?」が湧きましたね。この作品、もしや、テレビの「連ドラ」採用を狙ってるのではないかと。中身からしてNHKの朝の連ドラです。大阪放送局の制作にはとてもなじみやすい内容であること、しかし、ヒロインは江戸育ちなので東京の視聴率も稼げます。 


そう考えると、著者の下心は相当なもんだ、きっとドラマ化狙いだと勝手に合点してしまうのでありました。嗚呼、それなのに・・ 駄目男は今までNHKの連ドラなんぞ一度も見たことがない。なのに、よくもこんな身勝手なことが言えたもんだ。マッタク。

( 2014年5月 講談社発行) 

(注)「まかて」という変わった名前は著者の祖母(沖縄生まれ)の名前を拝借したそう。

 

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