岡野雄一「ペコロスの母に会いに行く」を読む  

 著者の認知症の母親をネタにした「介護マンガ」。長崎で自費出版した500冊がスタートで、後に西日本新聞社の目にとまり、地域でベストセラーになった。さらに映画化も決定、有名人になりました。


介護マンガと書いたけど、母親は施設入居者なので、家族がつきっきりで介護という状況ではなく、これが大いに救いになっている。本人も家族も自宅引きこもり状態の介護なら、こんなに笑いのとれるシチュエーションは生まれない。でも、少しでもぼけた親の介護に携わった人なら、そやそやと共感するところ多々、親子関係の切なさにジンとくると思います。


会話がすべて長崎弁というのがいい。童女のような母、みつえさんが標準語をしゃべったら興ざめも甚だしい。地元でたくさん売れたのも、長崎弁だから感情移入しやすく、共感度アップにつながったと思う。

 描かれるのがほとんど室内の場面になるのは仕方ないけど、わずかに出て来る長崎の街の情景も郷愁感十分、長崎は造船の街だから港に大きなクレーンが林立していて、これを紙細工の折り鶴に見立てる市民の洒落たセンスがグッド、とほめようとしたら、クレーン(crane)って鶴のことだった。ガハハのハ。(著者もこれをはじめて知って、目からウロコだったと書いている)


軽重の差はあれど、岡野さんと同じような介護状況にある家庭、全国でン百万所帯ありそうで、とうてい他人事とはいえない。両親はとっくの昔に見送りましたという人も、自分が介護される側になる確率が高いから無関心でおれるはずがない。さりとて元気な現在、予習する気にもならないのがホンネでありませう。でも、機会あれば施設へ出向き、介護される側の暮らしぶりがいかなるものか、見学しておいたほうが良いと思います。「ボケてしもたら、どこでも同じやん」は御法度です。


同じような介護問題を抱えてる人はゴマンといるのに、岡野さんはこのような素敵なマンガ作品で世間の共感を呼ぶことができ、印税や講演で収入も増え・・と、恵まれた老後になりました。一方に、苦労の山を築き、なんの報いもなく、せいぜい自己満足で終わってしまう介護人生も普通にあります。素質と運の問題と言ってしまえばそれまでですが、発想→表現力に恵まれた人ってトクやなあと、つくづく思います。(2012年7月 西日本新聞社発行)(注)ペコロスは小ぶりの玉ネギのこと。著者の自虐的命名

 

造船所のクレーンを「折り鶴」に見立てた。

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