佐伯泰英「惜櫟莊だより」を読む

 知人のIさんが「あんた、こんな本、好きやろ」と持参してくれたので佐伯泰英の本は読んだことないけど、断れずに預かりました。Iさんはモーレツな佐伯泰英ファンで、今までに購入、読破した作品が170冊というから、もう著書はほとんど読んでるといってもいい。新刊が出ると内容は問わず、買わずにおれないのはもはやビョーキではありませんか。


開けてみれば時代小説ではなくて(ホッ)著者はじめてのエッセイで、惜櫟莊(せきれきそう)という熱海の別荘を買い取り、修復、保存するいきさつと工事内容を綴った読み物なので、楽しく、一気に読破したのであります。(櫟=くぬぎ)


著者は仕事場として熱海の別荘地に居を構えているが、そのすぐ下に瀟洒な和風住宅があり、これが開発業者に売り渡されるという情報があった。ふだんから気にしていた建物なので調べたら、所有者は岩波書店の社長、設計者は近代数寄屋建築の第一人者、吉田五十八とわかり、俄然、売却解体なんてとんでもない、守らねば、との思いに駆られる。


ハヤイ話が、著者がこの物件を買い取り、築70年の老朽住宅を復元する、苦心物語であります。単なるリフォームではなく、全部解体して更地に戻し、基礎からやり直す。しかも、材料は瓦一枚まで古いものを再利用したい。すなわち、吉田五十八の設計思想をまるごと再現するのが目的の大改装であります。あの薬師寺東塔の解体、復元工事の民家版といっても良いくらいの大難儀工事です。でなければ、こんな分厚い本を書く気になりませんわね。


その工事の中身を書く紙数はないけど、感銘を受けたのは、施主である佐伯氏は無論のこと、工事を請け負った設計者、棟梁や職人すべてが、吉田五十八の美意識や繊細な感性に共感し、それをカタチで再現することに苦労をいとわないことです。困難な仕事であるほど情熱を燃やす、半端な妥協はしない。予算が・・という言い訳もしない。


・・と書けば、ずいぶんカッコイイ話しに聞こえますが、実際、この仕事に如何ほどの費用がかかったのか、貧乏性、駄目男は気になります。しかし、本書にはお金のことは一切書かれていないので不明です。不動産の買収費用と工事代、合わせてン億円でありませう。今どき、金に糸目をつけずにこんな贅沢をする人は珍しい。


本書には、不遇な時代の思いで話もいろいろ書いてありますが、人間関係でいえば、作家の堀田善衛との付き合いが一番濃密で、スペイン在住の時代、著者は堀田善衛の使用人、お抱え運転手だったそうであります。
 スペインで付き合ったアーティストも多いが、少々驚いたのは、画家のグスタボ・イソエ(磯江毅)とも10年くらい交流したこと。この人は駄目男の高校の後輩で、二十歳のとき、単身スペインに渡り、マドリード・リアリズムに共鳴して、狂気のなせるワザとしか思えないような独自の写実作品を描いたが、53歳の若さで亡くなった。


巻末にさらっと書いてあることに、佐伯泰英の著作の発行部数が累計4000万部を越えたと。その殆どが、時代小説に転向したあとのヒット作品という。大手出版社がバカにしていた「文庫の書き下ろし」という、半ばやけっぱちの作戦が功を奏して今や出版界の牽引役であります。惜櫟莊の購入、復元工事企画は、文化財保存への使命感と読者への感謝の気持ちが相半ばしていると思います。(2012年6月 岩波書店発行)


なお、吉田五十八が設計した建物で大阪近辺のものには「大和文華館」(奈良市)と「中宮寺本堂」(斑鳩町)があります。


佐伯泰英ウエブサイト
http://www.saeki-bunko.jp/index.html

 

 

 

後田 亨「保険のプロが生命保険に入らない理由」を読む

 ジャンルを問わず、印刷物ならなんでも読む乱読趣味人でありますが、保険に関する本はこれがはじめてです。そして、書名のように、保険会社の社員は保険に加入しないのは常識と知ってビックリしました。銀行と並んで「信用」を重んじる保険会社が社員に信用されていないなんて・・。えらいこっちゃ。


保険会社社員がいちばん利用しているのは社員向けで掛け捨ての「団体保険」のみでハデに宣伝している保険には入らない。保険の仕組みを知ってしまうとアホらしくて加入する気にならないからです。医療保険に関しては国の「健康保険」が最良という認識です。よって、万が一の事故死などに備えて「かけ捨て」の「団体保険」のみに加入しておく。


保険会社が生命保険で儲ける仕組みはどうなってるかというと、概ね20~60%を経費として計上する。仮に1万円払い込むと2000円~6000円が「粗利」となり、これで社員の給料を払い、代理店に手数料を払い、立派なビルを建て、あちこちに投資し、テレビなどでハデに宣伝する。それらを差し引いて残った金を加入者の保険金支払いに充てる。こんなこと、考えたことありますか。
 銀行のATM利用になぞらえば、1万円入金したら2000円以上が手数料としてさっ引かれる感じ。銀行の本業は金貸しなので、貸した相手から利息をとって儲けにするが、保険の場合は加入者からダイレクトに利益をさっ引く。大げさにいえばこういうことです。


一般人からの金集めにおいて保険会社が銀行よりうんと有利なのは顧客の「不安につけ込む」という手があるからです。病気に備えて、老後に備えて、子供の未来に備えて、とアイデアを凝らして不安を煽り、安心を売り込む。これを設計する人こそ保険会社のエリート社員でせう。いや、一般社員もかなりの高給で、住友、第一、大同、ソニーなどの平均年収は1000万を越えている。こういう、保険会社の保険には入らない人の生活を年収500万クラスの人が保険に加入して支えているわけです。ん?・・なんか、おかしいと思いません?


さて、我が身を振り返れば、保険に関しては無知蒙昧レベルで、過去に加入したのは全部「義理がらみ」でした。自らの意思で加入したことは一度も無い。
情けないというか、お人好しというか・・。なのに、あの世が近づいてるのに死亡保険に入っていない。(もう手遅れであります)


dameo が唯一加入している医療保険は「かけ捨て」で毎月5000円。18年掛けているので掛け金総額は112万円。手術や入院で支払われた金額が合計52万円でした。112万円ー52万円=60万円。文字通り「掛け捨て」したのが60万円。一ヶ月で計算すると2750円。これが純粋にムダ金です。払い戻し率は46%、いまのところ、保険会社の粗利益はおよそ5割となります。保険会社からみれば「まずまず良い顧客」の部類でせう。(2017年 青春出版社発行)


<追記>著者の説明では、保険会社の貯蓄型、個人年金型の保険はきわめてリスクが高い。それよりおすすめなのは「確定拠出年金」で、仕組みがややこしいとかデメリットもあるけど、勉強する価値はあると奨めています。

 

 

 

憎きゴキの賢い侵入ワザに感心

 過去10年くらい自宅でゴキブリを見たことがなかったのに今年はすでに2回見つけた。集合住宅は戸建て住宅に比べて密閉度が高くてドアや窓を閉め切っていたら侵入は難しい。それなのに侵入できたゴキの手口とは・・・。


●玄関ドアのドアポケットから
 ある日、新聞を取り出したらゴキが潜んでいた。ギョッ! 奴を玄関の空間に閉じ込め、殺虫スプレー大噴射、ポトリと落ちた処を逮捕、処刑。新聞をドアポケットに差し込むと5ミリほど隙間ができる。ここから侵入した。配達は午前3時で、取り出したのは6時ごろだから約3時間仮眠?していた。いや、新聞を熱心に読みすぎて室内侵入をさぼっていたのか。

 

新聞をポケットに落とし込まないと隙間ができ、そこから侵入する

 

●エアコンの排水ホース内をよじ登って・・
 別の日、エアコン室内機表面をゴキが這っていた。これも部屋を閉め切ってスプレーで追い回し、落ちたところを逮捕、処刑。ヤツはベランダで排水しているエアコン排水ホースの中をえっちらおっちら這い登ってきたらしい。
 すごいアイデアではありませんか。この侵入方法を知ったのは百均ショップで「エアコンホース用ゴキブリ侵入防止ソケット」なる商品を見つけたからです。(CANDO)・・ということはこの侵入方法がかなり知られていることになります。自分は全く知りませんでした。


しかし、百円の投資を惜しんで台所の使い古したネット付きスポンジのネットを排水口にかぶせて侵入できないようにした。これで解決。しかし、ホース排水口のサイズはゴキの成虫ならぎりぎり通れるかという狭さ。真っ暗でチロチロ流れる水の中を2m以上這い上がるのは大難儀と想像します。「鯉の滝登り」は風流だけど「ゴキのホース登り」は・・。そして、ようやく室内へたどり着いた途端見つかって処刑だから救われない。


この排水ホース登りを開拓したゴキはそのアイデアをどうして仲間に伝えたのか、興味があります。「スリムボディの方にお勧めする最新侵入ワザ」のセミナーとか開いて普及を計ったかもしれない。エアコンの普及でドアや窓を閉め切る家庭が増えるなか、ヤツらも生活維持に必死なのであります。

 

排水ホースの先端をネットでカバーして侵入を防ぐ

 

 

江上 剛「50歳からの教養力」を読む

 編集者のセンスが問われるダサイ題名の本で、売り上げはパッとしなかったのではと想像します。前に紹介したホリエモンの「僕たちはもう働かなくていい」のほうがよほどマシです。著者は元銀行員だった作家、50歳で退職し、作家稼業に専念、努力が実ってそこそこ名を知られるようになった。


世にサラリーマンの職種はゴマンとあるけど、生まれ変わっても絶対なりたくないのが銀行員であります。嫌いというより不適性、完璧に無能。初任給百万円でも「かか、勘弁して下さい」であります。逆にいえば定年まで勤め上げた銀行員諸氏はイヤミ抜きで尊敬します。穏健な性格と思われる著者、江上氏も途中退職したのだから、忍耐力のない人は到底勤まりますまい。


江上センセは大学卒業後、第一勧銀に就職した・・この選択が大チョンボでしたねえ。発足当時から悪評サクサクの銀行を選んでしまい、案の定、大苦労する。本書の前半はその苦労物語が延々と綴られる。‥といっても、いま40歳くらいの人は第一勧銀が第一銀行と勧業銀行が合併してできたことすら知らないのでは?。30歳未満の人はこれがみずほ銀行の前身だということも知らない?・・いや、それはないか。


メガバンクでは断然人気ワーストワンのみずほ銀行が発足する直前に江上センセは退職します。そして即「非情銀行」なんてイヤミ満点タイトルの小説を書く。しかし、もともと穏健な人だから告発モノばかり書くことはしなかった。そこらへんが教養力でせうか。で、後半は50歳以後、退職後の生き方を縷々のべるのですが、新味のないハウツー作文です。子供じぶんから作文は好きだったけど、本気で勉強をはじめたのはヨメさんにカルチャーセンターでの作文講座参加を奨められたからでした。そんな生活環境からプロの作家に転向できたのは銀行員時代に培った、敵をつくらない、円満な人間関係づくりの経験が生きたと思われます。カリカリ勉強して○○賞を目指すというタイプではなかった。


もう絶滅が近づいてるけど、定年まで銀行に勤めて、定年後の唯一の趣味はゴルフ・・。付き合っていちばん面白くない男のサンプルです。これにはまらず、途中退職して作家を目指した江上センセはそれだけで賞賛に値する。(2014年 KKベストセラーズ発行)

 

 

 

名画の秘密 ベラスケス<ラス・メニーナス>を読む

 図書館の美術書棚で素敵な本を2冊見つけた。一冊がこれ。美術ファンならずともご存じの傑作でありますが、傑作にして謎だらけの絵というのが魅力的であります。実は、大昔、dameo が画集ではじめてこの絵を見たときも単細胞的な疑問を抱いたものです。それは「絵の主役はどう見ても中央のマルガリータ姫である。なのに、なぜ画題が<ラス・メニーナス(女官たち)>なのか」というものでした。ま、こんな超素朴な疑問、誰でも抱くかもしれませんが。


宮廷画家、ベラスケスが王宮の一室で5歳の姫君を描いたこの絵は当然、王宮内に飾られる。それなのにタイトルが<女官たち>やて。王様、怒るで!。ベラスケスは「忖度」という言葉知らんのかいな。・・と気を揉んだのであります。おそらく世界中で5000万人(不詳)くらいは同じ疑問をもったと思います。


本書で説明する「謎」はもっと本格的です。怪しさのなかで最たるものは「どんな技法でこの絵を描いたのか」であります。ふつう、画家は目の前にある事物を目の前にあるキャンバスに描きます。しかし、この絵はそうではない。画家の前に巨大(約3m×3m)なキャンバスがあるのは確かで画面の左端に裏面が描かれています。(写真参照)しかし、この絵には絵を描く画家自身も描かれている。キャンバスからかなり離れているのは画面上のレイアウトとかのバランスを観るためにわざと離れていると思われます。


こんな場面をリアルに描くためにはキャンバスの背後に巨大な鏡を置く必要があります。しかし、鏡に映る像は左右反転しているので、人物その他の対象をすべて反転して描かなければなりません。え、えらいこっちゃ~~。
 ・・ということは、私たち鑑賞者は鏡面の位置でこの絵を見ていることになります。私たちはこの場面をリアルに眺めているのに、画家は鏡に映った左右逆の虚像を見て描いている。私たちは画家が虚像を見て描いた絵を実像と勝手に思い込んで鑑賞している。いや、そうではないのか、本当は・・


疑問が疑問を呼び、アタマが混乱し始める。タイムマシンがあれば王宮の現場へ乗り込んで「ベラスケはん、これ、どないして描きましてん」と直接尋ねたい。すると、ベラはんは「その質問、あんたで5万人目や、ええかげんにしなはれ」と。


実際、過去300年以上にわたって世界中の美術家や学者がこの作品についての持論を述べ、書物をつくったが謎の解明には至らなかった。フランスの哲学者、ミシェル・フーコーもこの絵の不思議さに関する随筆を書いている。現代ではパブロ・ピカソも探求心にかられて1950年代に詳細に研究したが、コレという成果はえられなかった。ピカソも匙を投げた名作であります。


ひとつ、大事なことに気づいていないのではないか。それは空想で描いた、という案です。眼前にモデルを配して描いたのではなく、画家の空想で描いた。昔の宗教画のように画家のイメージを自由に描いた。・・とdameo は勝手に想像した。こんな想像した人も1000万人くらいいたかもしれない。あらかた登場人物などを別々に描き、本作では画家のイメージに沿ってレイアウトする・・。どないです?このアイデア。しかし、そんな手抜き制作、王様がゆるすだろうか。「アカン!」の一言で却下されると思います。


この絵に描かれている人物はむろん、部屋や壁にかけられた絵画や女官が手にしている赤い小さい壺、そして画面右下に座る大きな犬まで、すべてがリアルで人物は出自、履歴がしっかり記録に残る。大きな犬は原産がロシア系の「スパニッシュ・マスティフ」犬である。要するに、画面に描かれた事物は全部リアルである。しかし、絵画本体は空想画である。あかんかなあ・・この案。
 美術鑑賞の好きな人が集まって持論を述べ、ディスカッションする・・こんな集いがあれば楽しいですね。(2016年 東京出版発行)

 

原画のサイズは276cm(W)×318cm(H)と大きく、上部は脚立がないと描けない。画家の右手の鏡に映ってるのは王様と王妃。

 

 

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」を読む

 友人から図書カード1500円ぶんを頂いたので、税込み1540円の本書を買った。有り難きシアワセであります。ヘンな題名やなあと訝りつつ読みましたが、期待ハズレでした。こんなのが芥川賞だなんて・・。カードをくれた友人に申し訳ない。


昔、石原慎太郎が審査委員をしていたときに新人作家の発想の貧しさを嘆いて芥川賞書評文の大半を愚痴に費やしたことがある。「どいつもこいつも身辺10メートル範囲の出来事しか書けない。それをレトリックでごまかして文学に仕立てている」と大変ご立腹でありましたが、いまだにこの陳腐な発想から抜け出せないらしい。重箱の隅をつついてネタを掘り出し「文学味の素」をふりかけて作品にした。


テーマは職場でのイジメ問題であります。これだけでも十分下らないのに、ほとんど毎ページのようにメシやデザートを食べる場面が執拗に描かれる。こんなに生理的不快感をたっぷり味わった小説は初めて読みました。一番多いのは主人公がカップラーメンを食べるシーン。そもそも主人公は「手間ひまかけて一所懸命に料理をつくることに何ほどの価値があるのか」というダメ男?なのでインスタント食品になんの不満もない。いや、ま、それはドラマの本筋ではないのですが。


過去10年くらいのあいだに読んだ芥川賞作品と比べたら、若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」 又吉直樹「火花」 西村賢太苦役列車」などのほうがずっとよかった。この小説を受賞にふさわしい優れた作品と思う人の意見を聞いてみたいものだ。 ま、でも高瀬センセはまだ若いし、次の作品に期待しませう。


おお!・・思い出した。昔々、ヨーロッパのどこかの国の作品で「バベットの晩餐会」という映画を観た。これも食べることがテーマの作品。料理人が心を込めてつくった最高の料理が頑なな住民の心をほぐし和解へ導く、を描いたもので、高瀬作品の食べ物をイジメのネタにするのとは真逆の発想のスグレモノでした。(2022年 講談社発行)

 

 

世界一貧しい大統領「ホセ・ムヒカの生き方と言葉」を読む

 10年くらい前に首題のフレーズで有名になった元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカの人生を綴ったムック版。 小国の権力者はたいてい「独裁者」として登場するけど、この人は「フツーのおじさん」というキャラクターで有名になりました。権力者を目指すこととフツーのおじさんでいることとは矛盾していて両立は難しいハズだけど、そこをなんとかやりくりして実現した。人気者になって当然でせう。世界的にも珍しいタイプの大統領です。


彼の特異なキャラクターの根本は無神論者であることに由来してるようで、さらに合理主義者でもある。因習や前例、形式に捕らわれることを極度に嫌い、「我が道を行く」スタイルでありますが、私生活はともかく、外交の舞台などでは変人ぶりが目立って官邸のスタッフはヒヤヒヤ、はらはらの場面がしょっちゅうあったらしい。例えば、ふつう、大統領と言えば防弾仕様の立派な専用車を使うものなのに、彼は1980年代生産の修理しまくり自家用フォルクスワーゲンを自分で運転してどこへでも行く。服装もヨレヨレの着古しで、そこらへんのオッサン風情だから威厳もクソもない。たまに大統領専用車に乗っても助手席にしか座らない。襲撃されたとき、運転手だけ犠牲にしたくないからだという。


青年時代は一日6時間を読書に費やすマジメぶりであらゆる哲学書、歴史書を読んだが、思想的に影響を受けたのはクラウゼヴィッツ戦争論」だという。若者の多くが染まる反政府運動に身を投じ、のべ4回の獄中生活を経験した。最後の刑は13年間におよび、発狂寸前になるほど痛めつけられた。
 国内問題では貧困層の救済を優先し、対外的には隣国であるブラジルとアルゼンチンと無用な喧嘩をしないように舵取りした。人口わずか340万人の小国ゆえ、戦争は即命取りになる。


ともあれ、2009年、選挙で選ばれて大統領になったが、すでに74歳、在任一期(5年)で引退した。珍しいキャラクターをプラス評価されてノーベル平和賞の候補に挙げられたりしたが、受賞には至らなかった。
 良い政策もあったがマユにツバする政策もあった。難点の一つは大麻の合法化かもしれない。禁止するから非合法ビジネスが生まれ、裏社会ができてしまうという発想から解禁したけど、これに賛成する国は多くない。ノーベル平和賞を受賞したらブーイングが起きること必須でせう。


彼はたくさんの語録を残したけれど、一番、共感できるのは2012年に開催されたリオ会議での発言。「私の国では、8時間労働を実現するために闘いました。今では6時間労働を獲得した人もいます。しかし、その人たちは空いた時間に別の仕事をしているのです。バイクや車のローンを払うためです」
 このような生き方は人間を真の意味で幸福にしない。その金を稼ぐための労働に費やした時間はもう二度と戻ってはこない人生の時間だ。せっかく空いた時間を労働などに充てず、自由に、自分のために使うべきだと。


テレワークを上手にこなしてつくった自由時間にアルバイトする。これを常識とする人が多数派でありませう。みなさん、口ではキレイゴトを言いつつ、ホンネは自由より金が欲しいのであります。(2016年 メディアソフト発行)

 

 

反田恭平「終止符のない人生」を読む

 万事に保守的な日本の音楽界にようやく革新派が現れた。大歓迎であります。2021年のショパンコンクールで第二位となり(日本人では最高位)一躍スターになった。いま、ピアニストでチケットが即完売になるのはこの人と辻井伸行の二人だけかもしれない。(一昔前はフジコ・ヘミングが良く売れた)


本書を読んで「がんばってや!」と応援したくなるのは従来のピアニストに無い世間を見る目の広さ、上昇志向の強さ、良い意味でのエンタメ(俗物趣味)精神でありませう。亡くなった中村紘子さんだって彼を見たら惚れると思いますよ。サービス精神旺盛なのでもしや関西人なのかと思ったら札幌出身でした。


アーティストは「血筋」の影響が大きいといわれるけれど、彼の場合は関係なしで、子供じぶんの夢はサッカー選手になることだった。ま、フツーの子供の範疇だったけど、ピアノのセンセイは音感の良さや記憶力で音楽の才能アリとみていたらしい。その後、怪我が原因でサッカー選手はあきらめ、趣味でピアノを続けるうちに欲が出てコンクール制覇を目指すようになった。


ショパンコンクールは5年に一度開催され、年令制限は30歳。今回は世界中から502名のエントリーがあった。優勝するためには501名を蹴飛ばさなければならい。はじめにDVDによる審査があり、これで9割くらいが落とされる。次いでワルシャワで1次予選、2次予選、3次予選、でふるい落とされ、最終戦では10人くらいの争いになる。これはフルオーケストラとピアノ協奏曲を演奏する。ものすごいプレッシャーがかかり、メンタルで平常を保つなんてムリ。


栄冠を目指して、全員猛練習の日々を送る。同じ曲を何度も何度も反復し、鍵盤に置く指の位置は1ミリ以下の精度で安定させる・・。ホンマか?。ホンマや、と反田は申しております。かような艱難辛苦を乗り越え、反田恭平は第二位を獲得した。もし、第五位だったら、チケットは半分も売れず、この本の出版もなかった。ポップスと違ってこの世界はレッテルの威光が大であります。


この人の魅力は「ピアニストとして更に研鑽を積む」なんて優等生的は発想に止まらず、音楽界を興隆させるために自分は何ができるかを真剣に考えてることで、まずはクラシック音楽の垣根を低くしようと他業界の研究もしている。例えば「乃木坂46」のコンサートに行って彼女らのサービス精神を学ぶとか。また、指揮者になりたくて、はやばやと小規模オーケストラを編成したり、新しいマネージメントシステムを考えたりと視野が広い。もっとも、ヘタするとミーハーに迎合してファンを失う危険もありますが。


前にも書いたけど、ピアノという身近な楽器の音色の美しさを知る人が少ないのはとても残念です。ほとんどの人は鍵盤を猫が踏んでも名人がタッチしても音は同じだと思ってる。その違いを知るために一生に一度でいいから名人の演奏に触れてほしい。(2022年 幻冬舎発行)

 

 

安い~早い~楽ちん・・大物室内干しのアイデアを紹介

今週のお題「最近洗ったもの」

 数年前に思いついたアイデア。シーツや毛布などの大物を室内で乾かすにはこれより簡単で見栄えのよい方法はないと思っています。1年くらい前に掲載した案をリデザインして紹介します。


~用意するパーツ~
◆突っ張り棒・・1本(直径20~30mm 長さ1,8m程度)
◆S型フック・・2個(金属製)
◆使い方・・・・写真のようにフックをレースカーテンのレールに引っかけ、        ポールをわたす。これで完成です。


~特色~
●ベランダ窓のカーテンレールを使うのが新発想
●室内で風や太陽光をいちばん利用しやすい窓ぎわで干す方法
●室内側のカーテンを閉じれば洗濯ものは見えない
●外側のレースカーテンを閉じれば外部から見えない
●庭やベランダに比べ、ホコリが少なく、衛生的
●ハンガーを使って衣類やタオルなども干せます


~注意すること~
▼事前にレール取付金具の取付強度確認(特に両端部)する。
▼洗濯+風乾燥をして重量を減らす(毛布は必須)
▼自宅での使用感では洗濯物(毛布)の重量は3kg程度が限度
▼ステンレスのポールは重いので使わない(アルミ又は樹脂製を使う)


シングルサイズのシーツを干しているところ。

 

S型フック(セリア)を外側レールに掛け、ポールを渡せば作業終了。

 

室内側カーテンを閉じると洗濯ものは見えにくくなる。外側のレースカーテンを閉じれば、屋外の人から洗濯物が見えにくくなります。

 

ハンガーを使えば衣類やタオルも干せます

 

奥行20センチのスリムハンガーが役立ちます(アイセン製品)

 

<注意すること> パーツを買う前にレール取付金具がしっかり取り付けられているか確認しましょう。グラグラしていたらネジを長いものに取り替えるなどの対策を。洗濯物の重さは脱水時で3kg程度までに止めてください。