世界一貧しい大統領「ホセ・ムヒカの生き方と言葉」を読む

 10年くらい前に首題のフレーズで有名になった元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカの人生を綴ったムック版。 小国の権力者はたいてい「独裁者」として登場するけど、この人は「フツーのおじさん」というキャラクターで有名になりました。権力者を目指すこととフツーのおじさんでいることとは矛盾していて両立は難しいハズだけど、そこをなんとかやりくりして実現した。人気者になって当然でせう。世界的にも珍しいタイプの大統領です。


彼の特異なキャラクターの根本は無神論者であることに由来してるようで、さらに合理主義者でもある。因習や前例、形式に捕らわれることを極度に嫌い、「我が道を行く」スタイルでありますが、私生活はともかく、外交の舞台などでは変人ぶりが目立って官邸のスタッフはヒヤヒヤ、はらはらの場面がしょっちゅうあったらしい。例えば、ふつう、大統領と言えば防弾仕様の立派な専用車を使うものなのに、彼は1980年代生産の修理しまくり自家用フォルクスワーゲンを自分で運転してどこへでも行く。服装もヨレヨレの着古しで、そこらへんのオッサン風情だから威厳もクソもない。たまに大統領専用車に乗っても助手席にしか座らない。襲撃されたとき、運転手だけ犠牲にしたくないからだという。


青年時代は一日6時間を読書に費やすマジメぶりであらゆる哲学書、歴史書を読んだが、思想的に影響を受けたのはクラウゼヴィッツ戦争論」だという。若者の多くが染まる反政府運動に身を投じ、のべ4回の獄中生活を経験した。最後の刑は13年間におよび、発狂寸前になるほど痛めつけられた。
 国内問題では貧困層の救済を優先し、対外的には隣国であるブラジルとアルゼンチンと無用な喧嘩をしないように舵取りした。人口わずか340万人の小国ゆえ、戦争は即命取りになる。


ともあれ、2009年、選挙で選ばれて大統領になったが、すでに74歳、在任一期(5年)で引退した。珍しいキャラクターをプラス評価されてノーベル平和賞の候補に挙げられたりしたが、受賞には至らなかった。
 良い政策もあったがマユにツバする政策もあった。難点の一つは大麻の合法化かもしれない。禁止するから非合法ビジネスが生まれ、裏社会ができてしまうという発想から解禁したけど、これに賛成する国は多くない。ノーベル平和賞を受賞したらブーイングが起きること必須でせう。


彼はたくさんの語録を残したけれど、一番、共感できるのは2012年に開催されたリオ会議での発言。「私の国では、8時間労働を実現するために闘いました。今では6時間労働を獲得した人もいます。しかし、その人たちは空いた時間に別の仕事をしているのです。バイクや車のローンを払うためです」
 このような生き方は人間を真の意味で幸福にしない。その金を稼ぐための労働に費やした時間はもう二度と戻ってはこない人生の時間だ。せっかく空いた時間を労働などに充てず、自由に、自分のために使うべきだと。


テレワークを上手にこなしてつくった自由時間にアルバイトする。これを常識とする人が多数派でありませう。みなさん、口ではキレイゴトを言いつつ、ホンネは自由より金が欲しいのであります。(2016年 メディアソフト発行)