高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」を読む

 友人から図書カード1500円ぶんを頂いたので、税込み1540円の本書を買った。有り難きシアワセであります。ヘンな題名やなあと訝りつつ読みましたが、期待ハズレでした。こんなのが芥川賞だなんて・・。カードをくれた友人に申し訳ない。


昔、石原慎太郎が審査委員をしていたときに新人作家の発想の貧しさを嘆いて芥川賞書評文の大半を愚痴に費やしたことがある。「どいつもこいつも身辺10メートル範囲の出来事しか書けない。それをレトリックでごまかして文学に仕立てている」と大変ご立腹でありましたが、いまだにこの陳腐な発想から抜け出せないらしい。重箱の隅をつついてネタを掘り出し「文学味の素」をふりかけて作品にした。


テーマは職場でのイジメ問題であります。これだけでも十分下らないのに、ほとんど毎ページのようにメシやデザートを食べる場面が執拗に描かれる。こんなに生理的不快感をたっぷり味わった小説は初めて読みました。一番多いのは主人公がカップラーメンを食べるシーン。そもそも主人公は「手間ひまかけて一所懸命に料理をつくることに何ほどの価値があるのか」というダメ男?なのでインスタント食品になんの不満もない。いや、ま、それはドラマの本筋ではないのですが。


過去10年くらいのあいだに読んだ芥川賞作品と比べたら、若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」 又吉直樹「火花」 西村賢太苦役列車」などのほうがずっとよかった。この小説を受賞にふさわしい優れた作品と思う人の意見を聞いてみたいものだ。 ま、でも高瀬センセはまだ若いし、次の作品に期待しませう。


おお!・・思い出した。昔々、ヨーロッパのどこかの国の作品で「バベットの晩餐会」という映画を観た。これも食べることがテーマの作品。料理人が心を込めてつくった最高の料理が頑なな住民の心をほぐし和解へ導く、を描いたもので、高瀬作品の食べ物をイジメのネタにするのとは真逆の発想のスグレモノでした。(2022年 講談社発行)