江上 剛「50歳からの教養力」を読む

 編集者のセンスが問われるダサイ題名の本で、売り上げはパッとしなかったのではと想像します。前に紹介したホリエモンの「僕たちはもう働かなくていい」のほうがよほどマシです。著者は元銀行員だった作家、50歳で退職し、作家稼業に専念、努力が実ってそこそこ名を知られるようになった。


世にサラリーマンの職種はゴマンとあるけど、生まれ変わっても絶対なりたくないのが銀行員であります。嫌いというより不適性、完璧に無能。初任給百万円でも「かか、勘弁して下さい」であります。逆にいえば定年まで勤め上げた銀行員諸氏はイヤミ抜きで尊敬します。穏健な性格と思われる著者、江上氏も途中退職したのだから、忍耐力のない人は到底勤まりますまい。


江上センセは大学卒業後、第一勧銀に就職した・・この選択が大チョンボでしたねえ。発足当時から悪評サクサクの銀行を選んでしまい、案の定、大苦労する。本書の前半はその苦労物語が延々と綴られる。‥といっても、いま40歳くらいの人は第一勧銀が第一銀行と勧業銀行が合併してできたことすら知らないのでは?。30歳未満の人はこれがみずほ銀行の前身だということも知らない?・・いや、それはないか。


メガバンクでは断然人気ワーストワンのみずほ銀行が発足する直前に江上センセは退職します。そして即「非情銀行」なんてイヤミ満点タイトルの小説を書く。しかし、もともと穏健な人だから告発モノばかり書くことはしなかった。そこらへんが教養力でせうか。で、後半は50歳以後、退職後の生き方を縷々のべるのですが、新味のないハウツー作文です。子供じぶんから作文は好きだったけど、本気で勉強をはじめたのはヨメさんにカルチャーセンターでの作文講座参加を奨められたからでした。そんな生活環境からプロの作家に転向できたのは銀行員時代に培った、敵をつくらない、円満な人間関係づくりの経験が生きたと思われます。カリカリ勉強して○○賞を目指すというタイプではなかった。


もう絶滅が近づいてるけど、定年まで銀行に勤めて、定年後の唯一の趣味はゴルフ・・。付き合っていちばん面白くない男のサンプルです。これにはまらず、途中退職して作家を目指した江上センセはそれだけで賞賛に値する。(2014年 KKベストセラーズ発行)