池井戸 潤「果つる底なき」を読む

 珍しくミステリーを読みました。いま、作家の稼ぎ頭?池井戸潤氏の24年前の作品で「第44回江戸川乱歩賞」受賞作です。読んでしみじみ感じたのは頭の老化で登場人物の名前や役割を覚えられずに困ったことです。それに400頁を越えるような長編を読むのがしんどくなった。老いて益々アカン爺になりました。


主人公は大手銀行の行員。彼の同僚が不審な死に方をしたため、真相を探ろうと活動する。その顛末を綴るストーリーです。銀行内部の事情がやたら詳しく描かれるので、もしや、と著者の経歴を調べたら元三菱銀行の行員でした。
 本書は1998年の発行なので銀行の業務も今ほどコンピュータ化が進んでいなかった。このころ、dameo はようやくワープロ「書院」を買って練習に励んだものです。この小説の主人公もまだ30歳くらいなのに「パソコンの操作は苦手だ」なんてセリフがでてくる。著述した90年代、ケータイ電話は重さ2kgくらいある「肩掛け式」だったかもしれません。


江戸川乱歩賞をとった作品だから文章はよくこなれ、ビジネスや生活細部の描写も新人とは思えない成熟感があって不満はありませんが、勝手知ったる銀行業務や人事のあれこれは書きすぎの感がある。全般に「くどい」という印象で全394頁のところ、50頁くらいは減らせそう。
 一方で、話の後半、主人公が運転する車が悪者が運転するタンクローリーに追突されて大破するのに何百キロも走って無事帰る・・ご都合趣向に少しシラけたりします。昔の勧善懲悪アメリカ映画みたい。


この世で一番やりたくない職業はなにか、と問われたら「銀行員」と答える。金を貸す、回収する、この仕事のどこに生きがいや達成感があるのだろうと、チョー素朴な疑問を抱くのであります。加えて「人事」のストレス。
 むろん、これは自分の偏見で、ローカルの銀行などで、銀行と中小企業が協力して業績の向上や新ビジネスの開拓に成功する話をきくと「ええ話やなあ」と素直に感心する。そうか、自分はメガバンクが嫌いってことか。


奥付を見ると、この文庫版は2001年発行、2016年、第54刷発行とあって理想的なロングセラーになっている。一刷3000冊としても15万部。他にもヒット作は多々、こんなに柔らかいアタマの持ち主がなんで銀行員になったのか。自分にはミステリーです。(2001年 講談社発行)

 

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