五木寛之「人間の覚悟」を読む 

 本書を読んで、自分は五木寛之の作品を一冊も読んでいないことに気づきました。単に好みに合わなかっただけかも知れません。昔はカッコイイ流行作家だったような気がするけど、著者自ら述べるところによれば、40歳代、60歳代、そして70歳代はじめに、深刻な鬱状態に陥り、抜け出すのにずいぶん苦労したとあります。


法然親鸞の思想を拠り所に「生きるとはどういうことか」を語るこのエッセイは、必然、明るい人生論にはならず、この先の時代は暗く陰鬱になるだけ、とか、人間は生まれたときから悪業を背負っている、逃れようと思うな、とか、読者に「鬱ウイルス」を伝染させるのが使命であるかのように「諦めと覚悟」を説く。


十分に説得力もある内容ながら、こんな本を読むときはアウトボクシングの要領で、つまり、距離をとって読むことが大事ですね。「全幅の共感」をもって読めば、ウツがウツるんですよ。また、生命の尊厳を説くに、植物状態であろうが、生きてること自体に価値がある云々の話など自分は共感できない。五木式正義感の押しつけではないか、という気がする。そういう思想と現実社会との乖離が五木センセの鬱の遠因になってるかもしれない。

 

生命の尊厳というテーマでいえば、死刑制度についてどう考えているのか、お説を聞きたいところですが、このテーマを考え続けると、五木センセ、人生四度目の鬱に落ち込むこと必須でありませう。人生の諸問題にマジメに向き合うことが大事であるとともに、世渡りには、少しはちゃらんぽらんに生きる、ええ加減さも必要なのですよ、先生、と五木センセに説教する dameo でありました。(新潮新書 2008年11月発行 680円)

 

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