加治将一「舞い降りた天皇」を読む

 ~初代天皇「X」はどこから来たのか~

 近年読んだ歴史モノでは出色の面白い本だった。小説(ミステリー)仕立てで書いてあって、古代から飛鳥・奈良時代あたりまでの歴史を鳥瞰するような、ワイドで中身も濃い情報が詰まっている。この一作で古代史のおさらいができ、ついでに著者が唱える初代天皇「X」論も楽しめる。なんというか、一粒で二度美味しい・・みたいな本です。文庫本、上下600余ページのボリュウムがあるけど、すいすい読めます。


副題にあるように、最大のテーマは、初代の天皇は、何処から来たのか、を追求することです。その天皇とはむろん、仮想ではありますが、神武天皇です。そして、著者の推理では壱岐対馬あたりの出身だろうと・・。う~ん、むむむ。基本資料は「魏志倭人伝」と「日本書紀」ですが、周辺の関係資料もわんさと出てくる。しかし、学者の著作のように、重箱の隅をつつくような細かい解説はしないので、独断、偏見交えて話が早い、というのが素人向きでよろしい。


世に言う「神武東征」とは何であるか、なんのためにあんなしんどいツアーをやったのか。著者の論では「シナ勢力からの逃避」であります。本来、北九州で国らしきカタチをつくっていたけど、いずれ、シナが進軍、侵略してくるだろう。戦っても勝ち目など無いから、国(邪馬台国)ごと、シナから見たらなるべく列島の奥のほう、つまり近畿地方へ引っ込んで、そこで新たに国、ヤマトをつくった。


神武東征とは、文字面では東の方へ攻め上がるという意味にとれるけど、ちがひます、逃げてきましてん、というのが著者の研究成果であります。シナの圧力におびえて東へ東へ・・。後世、岡山の鬼ヶ城とか、生駒山系の高安山に防御のための城(砦)を築いたことでも分かるように、朝鮮、シナによる攻撃を本気で心配していました。


ゆえに、邪馬台国創立の地は北九州、移転後は大和になります。今の論争では、九州と近畿、どちらが邪馬台国だったのか、が争われていますが、著者の発想ではどちらも本物、引っ越しただけだと言う。こう言われると、すごく分かりやすい。どちらも邪馬台国であった、というわけです。


これだけなら、600頁も費やす必要はないけど、そこに話を楽しくするための仕掛けがいろいろあって、出雲系(権力闘争の負け組)の扱いとか、裏でヒモを操るフィクサー秦氏の一族とかが絡む。現代の皇室情報では、この秦一族の話題は皆無だけど、天皇家の元祖をつくり、裏で支え、コントロールしたのは秦氏ではないのか。藤原京平城京平安京をつくるには政治思想から仏教情報、ハード面での設計、技術情報など、膨大な情報を入手、駆使しなければなりませんが、その役目のおおかたを秦一族が担ったのではないか。これは半分、駄目男の想像も交えての見解です。


本書が面白いのは、神話時代の事件を、神ならぬ普通の人間なら、こう考え、行動すると、リアリティを持たせて描写しているからです。こじつけもままあるが、なるほど、そういうことだったのかと妙に説得力があって、つい読み進んでしまうのでありました。(詳伝社文庫 2010年10月発行)

 

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