文豪編集委員会「文豪誕生」を読む

 こんな懐古趣味丸出しの本を出版して誰が買うねん、と素朴な疑問をもつのでありますが、dameo のような昔人間には馴染みがいいとゆうか、親近感満点の本であります。2021年(今年)の発行だけど、企画者の意図はどうあれ、売れなかったでせうね。本書で文豪として紹介されてるのは、芥川龍之介太宰治織田作之助坂口安吾中島敦江戸川乱歩谷崎潤一郎、の7名です。


何を基準に選んだのか分からないけど、夏目漱石森鴎外など、明治に活躍した文豪の一世代あとの作家と言えます。この7名の中で現在でも読者が多い人気作家は誰か、というと太宰治でせう。逆に、知名度の低いのは坂口安吾中島敦でせう。


本書には各作家のデビュー作が掲載されている。これが唯一の意味ある企画かもしれません。で、各作家の皆さん、デビュー作品からいきなり傑作を書いたのか、というとそうではない。上手、ヘタでいえば、一番ヘタなのが太宰治というのがdameo の感想。一番上手なのは中島敦だと思います。もちろん、デビュー作品の優劣と後世の評価は別ものです。


何より残念なのは多くが短命だったことです。芥川龍之介35歳、太宰治38歳、織田作之助33歳、坂口安吾48歳、中島敦33歳、江戸川乱歩72歳、谷崎潤一郎79歳。中島敦なんか1942年(昭和17年)にデビューして、その年の12月に亡くなった。作品を読んだ人はみんな「せめてもう数年、活躍してほしかった」と惜しむのではと思います。


一方、もう死んでしまいたいと思ってるのに死に損ないを繰り返したのが太宰治です。自殺、心中にトライするもなぜか上手くいかず、自殺、心中を5回繰り返してようやく成就した。最高にブサイクな話だけど、なぜか世間はあまり悪口を言わない。女たらしも度を過ぎると憎めなくなるのでせうか。それなら太宰ならではの「人徳」かもしれない。


デビュー作で一番こなれた、というか、完成度の高い作品を書いたのは江戸川乱歩ではと思います。(何十年ぶりかで乱歩作品を読んだ)「二銭銅貨」という短編で話のキモは暗号解読です。こんな手の込んだ作品を書けたのは乱歩が当時長い失業の日々を送っていたせいだと解説に書いてある。金はないけどヒマはたっぷりある。これが役だった。ひどい貧乏暮らしが傑作を生んだというわけです。以後、乱歩センセはとんとん拍子に出世して推理小説作家の大御所になった。


dameo  が乱歩作品を読むきっかけはE・A ポーの「アッシャー家の崩壊」という傑作を読んで感銘を受け、ほんなら日本の作品も読んでみようかと乱歩の本を買った。ついでに、あれこれ思い出をたぐると、小学校6年生ごろに「アルセーヌ・ルパン全集」を読んだ。何が魅力だったのか・・。タイトルで覚えてるのは「八点鐘」のみ。(2021年 新紀元社発行)

 

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