城山三郎&平岩外四「人生に二度読む本」を読む

 図書館でこの本を見つけたとき,中身も見ないで「良い本に出会った」と嬉しくなりました。読んでみれば期待通りで、読書の達人が対談で好きなように語る雰囲気まで伝わるような楽しい本です。
 城山三郎は有名作家だから紹介するまでもありませんが、平岩氏は若い人は知らないかも。東大卒、東京電力に入社して社長、会長まで登り詰め、最後は経団連会長も務めた大物財界人でした。一方で大変な読書好きで、硬軟いろんな本に通じ、蔵書は3万冊に達したそう。財界人で作家と文学論を戦わせる人って珍しく、本書ではほんとうに楽しそうに城山氏と語り合っています。(両名とも2007年没)


これぞ名作、二度読むに値する本を選んで好きなように持論を述べるのですが、これが文学者どうしだったらどうしてもお堅い批評になるところ、畑ちがいというのが良くて、相手にも世評にも合わせなくてよい。これが楽しい。

本書で両氏が選んだ作品は12冊。(●はdameo  が読んだ作品)
夏目漱石「こころ」 ■A・ヘミングウエイ「老人と海」     
太宰治人間失格」 ●F・カフカ「変身」
中島敦山月記・李陵」 ■H・ヘッセ「車輪の下
大岡昇平「野火」 ■J・ジョイス「ダブリン市民」 
■V・ウルフ「ダロウエイ夫人」 ●R・バック「かもめのジョナサン
吉村昭間宮林蔵」 ■S・アンダソン「ワインズバーグ・オハイオ


人気、知名度だけで選んだ作品でないこと察せられます。二人の興味、愛着度で選んだ。但し、どちらかが未読で、この対談の機会に初読した本もある。
 この本の読者=自分が二人の評価に合わせる必要がないことも当然で、例えば、漱石の「こころ」は二人ともベタほめであります。漱石作品の中では一番の傑作だと。実際、文庫本の売れ行きでは出版史上一位だそう。さりとて、読者が内容を理解しているのかといえば、それは怪しい。二十代、三十代、四十代、と読んだ年令によって理解度や感銘度がかなり異なる・・ということは、二十代で読んだ人が二十年後に再び手に取る、があり得る。中年になってようやく主人公の懊悩が理解できる。そんな奥深い作品だという。でも、正直いって、二十歳代?で読んだ自分には名作の印象はないまま爺さんになってしまった。


先月の感想文で dameo がほめまくった中島敦の作品。それが登場するのは嬉しい。さらに、カフカの「変身」も選ばれてるのですが、対談の中で、中島敦カフカ作品のファンだったかも、と話しているうちに「山月記の人から虎への変身はカフカの「変身」をヒントにしたのではないか」という話になって、思わず、ホンマや、と言いたくなりました。中島くん、マネしたんちゃう??


かもめのジョナサン」を城山氏が選んだのは、ご本人が著者のリチャード・バックと昵懇の間柄だったから。しかし、和訳は五木寛之氏がして大ヒットした。当時の世評にあおられてdameo も読みました。あれから、もう50年にもなるのですか。あの世が近づくのもむべなるかな、であります。
 かもめが常に海面すれすれを飛ぶのは獲物(魚)をとるため。しかし、そんな低空飛行人生で委員会?と思うジョナサンは、かもめが本来持つ高度な飛行能力を生かして高さとスピードの極限を目指し、猛練習に励んだ。そして会得した技術は惜しみなく後輩に伝授した・・。
 んんん・・?。この話、アレに似てるじゃありませんか。そう、中島敦の「名人伝」です。弓の名人と飛行術の達人が目指す究極の世界・・。リチャード君、中島敦をマネしたんちゃう?(4月30日に紹介した中島敦本に掲載)

 

いや、もう本当に楽しい本でした。同じ趣向で「二度読みたくなる本」を再企画したら結構売れるのではと思います。昔に読んだ名作を思い出すきっかけになるだけでも有意義でせう。それに「あらすじ」と「解説」が2~3頁ついてるので、未読の本に興味をもつ機会にもなります。(2010年 講談社発行)