西原理恵子「この世でいちばん大事な『カネ』の話」を読む

 著者の作品を読んだことないのに自叙伝を読むなんて、ええ加減な話でありますが、図書館でなにげに手に取ったというだけが動機です。逆に、この本を読んでから作品を読むほうが、より著者に興味をもてるかもしれない。でも、サイバラさんの本、図書館で余り見かけたことがない。後日、探してみます。


1964年、高知県生まれ。貧困と家庭内暴力が日常の、荒廃した環境で育ち、物心ついて、とにもかくにも、この家庭、この町から脱出したいの願望が強くなる。高校を退学処分になるくらいの駄目子なのに、絵を描くのが好きという理由だけで東京の美大を目指し、ようやく叶えられそうになったとき、父親がバクチによる借金まみれで首つり自殺。ガ~ン!


48ページ
 「終わりは突然やってきた。お父さんが首を吊って死んだ。その日は私が東京の美大を受験するはずの日だった。(略)わたしが高知の家にとって返すと、喪服を着たお母さんがいた。顔は殴られて、ぼこぼこに腫れて、頭も髪の毛も血だらけだった」


このあと、父親のハチャメチャな、甲斐性ないくせに見栄っ張りで、お金は全部バクチに注ぎ込み・・という、サイテーの人生が綴られる。
 これを読んで自分も思い出した。駄目男の友人知己の中に自殺した人は6人いるが(うち二人は心中)みんなが同情に値するケースではなくて、自殺の一報を聞いたとき、反射的に「ま、しゃーないな」と納得してしまった例もある。

 サイバラさんの父親と似た男だった。自堕落な性格、生活がエスカレートしたあげく、自己嫌悪が募って発作的に自殺したと思えるが、彼の場合、妻も同じくらいに自堕落な女で、どうにも救いようがなかった。人生のリセットより清算=死を選んだ気持ちに共感できた。とはいえ、残された家族の悲惨を思うと暗澹たる思いにとらわれたのも事実ですが。


なんとか東京へ脱出して、美大へ入って・・しかし、生活は困窮をきわめる。毎日、大中小零細出版社に日参してセールスするも相手にされず、ようやくもらった最初の注文がエロ本のイラスト、カットだった。そんな仕事できませんと断れる状況ではなかったので、二つ返事で請け負い、しかし、これが、サイバラさんの出世のスタートになったのだから、人生いろいろですねえ。


そんな人生体験から「この世でいちばん大事なのはカネ」との思い強く、本書を書く動機になりました。百円、千円の有り難さが身にしみているから、稼げるチャンスとあらば、なりふり構わず仕事せよ、であります。彼女にとっては、少なく稼いで少なく消費する「清貧の思想」なんて、アホちゃうか、でありませう。マンガではなく、ブンガクの世界では、林芙美子の人生もこれに似たところがあります。有名小説家になって金持ちの仲間入りしたにもかかわらず、頼まれた仕事は断らず(断れず)なんでも引き受けた。しかし、それが彼女の寿命を縮めた。(47歳で没)うまいこといきませんなあ。


それほどお金に執着したら、今や貯金が積み上がって大金持ちに・・なってるはずですが、実は違うらしい。「まあじゃんほうろうき」という作品を描くために麻雀を習ったのが縁で勝負にはまり込んでしまい、10年間で5千万くらいが消えたとか、あろうことか、FXに手を出してスッテンテン・・。あれほど嫌った父親のバクチ好きの血を引き継いでしまったようです。むろん、そのことへの言い訳も書いてあるが、やはり血筋というのは恐ろしい。(2008年12月 理論社発行)

 

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