事故物件怪談 松原タニシ「恐い間取り」を読む

 B級芸人は何かユニークな持ちネタがないとメシが食えないという厳しい状況にある。著者もその一人で何の因果か「事故物件住みます芸人」で売り出した。おかげで?北野誠とかタレントとのコネができ、TV出演などでそこそこ稼いだらしい。普通の人は恐くてゼッタイできない恐怖体験をしてのゼニ儲け。その体験の数々を間取り図つきで解説した本であります。


事故物件とは、賃貸住宅・マンションのなかで自殺や殺人事件などがあった物件。そんな部屋、借り手がないに決まってる。その上、家主は貸す相手に「この部屋ではこんな事故がありました」と説明する義務がある。ますます嫌われる物件だけど家賃は大幅に安くする。相場月10万円の部屋を3万とか4万に値下げする。・・すると、稀にOKする人がいる。大家さんヤレヤレである。


そして、事故後に一度入居実績をつくると、その次の入居者には「事故物件」の告知義務はなくなる。入れ替わりの激しい物件ではウワサも長続きせず、事故のことは忘れられてメデタシ・・?となるのであります。
 

本には京阪神地域で50件のレポートが間取り図つきで掲載してあり、うち1件は dameo 宅から徒歩10分ほどの近場なので驚いた。(あとで説明します)
 著者が一番強烈な経験をしたのは第一回目の「住みます体験」をした大阪・難波界隈のマンション。20年くらい前、ここが凄惨な殺人事件の現場になった。犯行は4階の部屋だったが、著者が借りたのは6階の部屋で美しくリフォームされ、かつ、安い。


呪いのマンションに住めば何が起きるのか。著者は興味半分、怖さ半分。起きたことを客観的に記録しようと部屋の隅に固定ビデオカメラを設置して24時間記録した。あとで再生すると身体にまとわりつくように白い布のようなものが写ってた(下の写真)。また、窓を開けていないのに突然カーテンがひるがえった・・。


このマンションは事件後は蜘蛛の子を散らすように入居者が逃げだし、がら空きになった。そのため、事故部屋だけ値下げしても新規客はなく、全室が大幅値下げになった。オーナーもあちこち改装してイメージチェンジを計った。


「事故物件住みます芸人」業をしていると賃貸物件のオーナーからの依頼がある。前記したように事故物件に入居すると、その次の入居者には事故物件であることを通知しなくて良いので、いわばオーナー向けの「人助け」になる。
 五軒目の事故物件は3DKの広い家で家賃3万円。現場を訪ねるとえらく汚れていて土足でないと歩けないくらいだ。この家で60代の息子が80代の父親を介護していた。父親が亡くなったあと、すぐに息子が自殺した。仏壇にヒモを架けての首つり自殺。尻餅をついたような姿勢で首が伸びきっていたという。


なにしろ汚い家なので、玄関横の4,5帖間だけ片付け寝室にした。ユーレイは出なかったが、ここに泊まると翌朝まったく体力が回復しない。何時間寝ても同じ。友人を泊めたこともあるが、彼も同じ体調になった。ビデオには壁面を黒い影が通り過ぎるさまが映っていたという。


さて、dameo  宅近くで著者が体験した事故物件の話。物件の向かいにあった漫画喫茶でバイトしたときの体験だけど、この話、現場を知る自分からみるとインチキくさい。深夜、店を片付けていると道向かいの元病院の窓に患者の亡霊が並んでじっとこちらを見ている・・と。けれど、この道は幹線道路で深夜でも大型トラックなど車が多い喧噪空間だ。亡霊のお出ましに似合わない環境である。


しかし、元病院が廃院になって廃墟になったことは事実であり、悪徳院長のために何十人もの貧困者やホームレスが犠牲になったのも事実だった。著者はこの悲惨な事件と現場直近での自分のバイト体験をネタにして創作したのでは・・と疑うのであります。現在、この呪われたビルは改装して雑居ビルになり、著者がバイトした漫画喫茶は廃業したので恐い話のネタではなくなった。(2018年 二見書房発行)

 

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