読書感想文

適菜 収「ニーチェの警鐘」を読む

 お目当ての本を買うとき、ふと書棚で目についた別の本も買ってしまうって、よくありますが、これもその「ついで買い」の一冊。哲学者が偉大な哲学者の思想や業績を解説した難解な本を駄目男が買うハズがないけど、安直な新書版だとつい手にとってしまう。まんまとハメられているのであります。


著者、適菜センセイは本書で何を伝えたいのか。ニーチェが100年以上前に想定した未来社会が、いま、日本や諸外国で現実になりつつある。民主主義の定着~選挙制度による大衆の権力増大~人間の資質の劣化。要するに、総理大臣からシモジモ一般大衆まで、バカが増えている・・。こういうことを言いたいのであります。権利や富の平等化が進んで大衆が社会の主役になるのは是としても、主役の大衆のクオリティが劣化しているために社会が不安定になっていると。


で、著者は個人名を挙げてコテンパンにくさすのであります。そこまで言って委員会、とこちらが心配するほどでありますが、モメても知りませんからね。同業の哲学者、教授、はては先般亡くなった吉本隆明までぼろくそであります。大衆がバカなのは自明であるが、上に立つインテリまでがこの体たらくだと。なんだか、著者以外、この世にはバカしかいないような書きぶりであります。


本書の大きなテーマは社会で多数を占める「B層」の問題です。ある広告会社が選挙に際して研究した階層分析で、一部のエリートをA層、大多数がB層、ほかにC、D層という少数層もありますが、選挙に勝つためにはB層の票をいかに多く獲得するかが大事です。これを研究、実践して大勝利をおさめたのが小泉純一郎元総理でした。逆に言えば、有権者の多くは、まんまと彼らの戦略に取り込まれてしまったのでした。


B層の人って、どんなん? 著者曰くは、もちろんバカの類いでありますが、151ページには、こんな文もあります。(以下引用)

 「B層は単なるバカではありません。むしろ、新聞を丹念に読み、テレビニュースを見て、自分は合理的で理性的な判断を下していると信じています。そして、騙されても決して反省せず、自己正当化のあげく、永遠に騙されていくのです。小泉郵政選挙に騙され、民主党マニフェスト詐欺に騙され、この先も、「改革」「革命」「維新」を声高に唱えるようなB層政党やB層政治家に死ぬまで騙され続けるのでしょう」(引用終わり)


小泉自民党に一票を投じ、もう飽きたと次は民主党を支持し、これも裏切られたと、ただいまはハシモト閣下の言動に共感を覚えている・・著者がいう模範的なB層人間の像です。しかも、自分では常識を備えたわけ知りだと勘違いしている。100年以上昔、今に比べれば、ずっと明快な階級社会であった時点で、このような、来たるべき大衆社会を危惧していたニーチェのスゴイ先見の明にビックリです。


ニーチェは、キリスト教普及の原理はルサンチマン(弱者の怒り、怨念)と同情だと論じたそうでありますが、そういう概念をもつ人で構成される社会が最良の社会か否か。そもそも、キリストとキリスト教会は別物だろ?と基本のキから疑ってる。それを言えば、仏教だって、お釈迦様の教え=今の日本の仏教の教えとは言えない。それぞれの宗派による解釈仏教というのが、たぶん正しい。


自分で選んでおきながら「なんでこんな自分の馬鹿さを再認識させられる本を読まなあかんねん」と腹を立て、テレビのスイッチ入れたら阪神3連敗やて。神も仏もあるものか。(講談社+α新書 2012年4月発行)

 

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