鈴木大介「老人喰い」

 オレオレ詐欺などで高齢者を騙して金を奪うグループに接触し、内情をレポートした読み物。最近は騙して奪うだけでなく、殺して奪うなど凶悪化して社会不安は更に高まった。初期のオレオレ詐欺は単純に騙してナンボというシンプルな犯罪だったが、年月を経て犯人はワルなりにノウハウを積み、著者の言い方では「洗練されたシステム」になってるというから恐ろしい。一時的な流行犯罪ではなく、技術を磨いてライフワークを目指す若者もいる。


対して、被害者である老人は概ねずっと「アホ」のままであります。最近、福島県の農村で起きた強盗傷害事件の被害者夫婦は「在宅中は玄関の鍵をかけない」という昔からの村の風習を守っていたために易々と犯人に襲撃され、大金を奪われた。夫婦は「世の中に悪人はいない」が信条だったのか。


成功、失敗体験を積み上げて高齢者詐欺は以下のような組織、人材を以て営業?活動を行う。

1・名簿屋
2・実行犯
3・闇オーナー


初期のオレオレ詐欺はまるでテレホンセンターみたいに大人数を使って名簿の人物に電話をかけまくった。100人に掛ければ一人くらい引っかかるアホな老人がいるだろうという単純な発想だけど、掛ける側、即ち犯人にもアホが多いから効率が悪い。そこで大事なのは「金持ち老人のリスト」だ。名簿屋は興信所の身元調査みたいに個人情報を調べ、ランクをつけて実行犯グループに売る。信頼度の高い情報は一件、何万、何十万で売る。電話による広告で使う個人名簿は一件2~3円らしいから無茶高い。


犯罪においても生産性向上は必須である。つまり、成功率を高めるためには優れた人材を養成し、ミスやロスを避ける。これが成功しつつあるから高齢者詐欺は減らないのであって、詐欺犯人は被害者より格段に知的レベルが高い。言葉使いなどマナーも優れている。人材養成所は、以前は隠れ家的な部屋だったが、現在は駅前の普通のテナントビルを借りてテキトーな社名を掲げ、犯罪者を養成している。但し、訓練は相当厳しいらしい。その一方で、良い人材を確保するために「福利厚生手当」とかもあるそうだ。


闇オーナー・・養成所の責任者は店長とか番頭と呼ばれ、雇われの身分だが真のオーナーは店長でも滅多に顔を合わさないか、会ったことがないケースもある。本書ではその正体を説明していないが、自分が想像するに暴力団の幹部かもしれない。一般人のワルが成功を重ねてトップに君臨しても内輪モメなどで殺される懸念があるが、暴力団ならまずその心配はない。


本書を読んで気になったことがひとつ。3月3日「FIREという生き方を考える」記事のなかで、サラリーマン人生に絶望した若者がFIREを目指す、と書いたけれど、詐欺師のウデを磨く若者にも同じ発想があるかもしれない。コツコツと資金を貯めるのではなく、一発でン百万という大金を稼ぐには高齢者詐欺は魅力的なコンテンツというわけだ。あな恐ろしや。金持ち老人から大金を奪うことにさほど罪悪感はなく「所得の移転」くらいの感覚なのだろう。著者に詐欺犯罪を糾弾する姿勢がイマイチなのも気になった。(2015年 筑摩書房発行)