岡本純子「世界一孤独な 日本のオジサン」を読む

 2018年にイギリスのメイ首相が政府に「孤独省」をつくると発表して驚いたが、こんなの世界ではじめてではないか。孤独に悩む高齢者など百万人単位の人たちを救済するために公的機関をつくるという。う~ん、日本では考えられないけどなあ、と他人事視していた。(日本でも似たような組織をつくった)


 しかし、本書のタイトルは「世界一孤独な日本のオジサン」であります。かつ、著者はイギリスの事情にも詳しいので、日本のオジサンたちに警鐘を鳴らす意味でこの本を書いたと思える。国民でなく、オジサンと男性に限っての啓蒙書であります。


 歴史的に単一民族であった日本人は、ビジネスを除いた私的生活では「自分は何者であるか」をアピールする必要が少なかった。さらに、群れたがることはかっこ悪くて、孤高が美徳という風潮もある。アカの他人とフランクな付き合いをしたいという欲求が乏しい。


 会社という組織にいるときはさほど問題ないが、定年とかで組織とプッツンすると砂漠のまんなかに放り出されたような、一人ぽっちの存在になる。特に「仕事が生きがいでプライドが高い」と言うタイプの人にはショッキングな場面転換になり、孤独地獄に陥ってしまう。


 そういう人に限って妻や家族との関係が疎遠な場合が多いから、家庭での居場所も失いがちである。昔はやった「濡れ落ち葉」オジサンがその見本です。趣味があればずいぶん救われるけど、10人に一人くらいは無趣味人生を送ってきた人で、さりとて60歳、70歳になってから趣味探しというのも難しい。そもそも「老後をどう生きるか」という大事な命題に無関心だった。そんな人いるのか、と思うけど、いてはります。


つきあいヘタなオジサンって、どんな人?
・人見知りする。
・雑談が苦手
・お酒が飲めない


お酒が飲めないのは体質だから仕方ないけど、「雑談が苦手」くらいは改善できそうな気がする。しかし、人見知りも、雑談嫌いも長年かかって培われた性分だから、今日から改めるぞ、と奮起して改まるものではない。そんな努力するより今のままで良いではないかとなるのが普通だ。


 精神科医や評論家があれこれ「脱孤独」を説いても効果は乏しいのではないか。世間には孤独につけこんで入信を誘う宗教団体もあるから油断できない。オレオレ詐欺にひっかかって何百万円も騙しとられる人は精神的背景に「孤独」(人恋しさ)があるかもしれない、と想像する。


 最終章で著者は孤独に耐えるために必要な三つの要素を示している。カネとコネとネタ、である。
・カネはいうまでもなく、たくさんあった方が良い。
・コネは人間関係づくり。
・ネタは生きがいになるような趣味や社会活動。

これも全部しっかり揃えるのは難しい。せめて、コネとネタづくりに励んで孤独地獄に落ちないようにしたい。(2018年 KADOKAWA発行)

 

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