絵本「こどものせかい」の出版社から「宇宙旅行の絵を描いて下さい」と注文された画家はどれくらい困惑したか。もし、自分が画家であれば「まいど、おおきに」と二つ返事で引き受けただろうか。今から64年前、昭和33年のことである。
たった8頁のこの絵本、しかし、厚紙にカラー印刷というリッチなつくりで、別のページにはデビューまなしと思われるいわさきちひろの作品もある。
宇宙旅行とかロケットとか、生活概念にない場面、モノをどんなふうに描けばよいのか、画家は悩みまくったのではと想像します。おそらく「無重力」も知らなかったのではないでせうか。
でも描かねばならない。画家はありったけの科学知識を使って宇宙旅行のようすを表現した。それが下の画像です。素朴で微笑ましいという見方ができますが、いまの子供が同じ感覚で見ることができるか? できないでせう。飛行機=プロペラ機の時代、宇宙旅行も「空を飛ぶ」と言う点は同じだからという発想で描いたと想像します。キッチンでコックさんが料理を作ってる場面を加えることで宇宙旅行の味気なさをカバーしています。
現実の世界はどうだったのか。宇宙ロケットの開発はものすごいスピードで進みました。シンプルにまとめたらこんな感じです。
1945年・・敗戦により、軍事研究禁止
1955年・・糸川英夫博士、ペンシルロケット(23cm)発射に成功
1959年・・当「こどものせかい」発行
1968年・・映画「2001年 宇宙の旅」公開
1969年・・アポロ11号 月面着陸に成功
なんと、この絵本が発行された10年後の1969年に月への往復旅行が実現しました。ソ連とアメリカの熾烈な競争があったとはいえ、ものすごい科学技術の進歩です。その前年には映画「2001年 宇宙の旅」が公開された。今から見ればぜんぜんリアルな映像ではなかったのに観客はみんな宇宙旅行ってこんなものかと思ってしまった。
今から64年まえに描かれた長閑な「100%アナログ発想による宇宙旅行」をお楽しみ下さい(1959年 カトリック協議会発行)
宇宙ロケットの内部のイラスト
ロケットの操縦は重機操作でおなじみのレバーで行う。通信士はヘッドフォンをつけて交信する。食事はコックさんがつくる。
複雑な機械=歯車の組み合わせを想像した。
1959年発行の絵本