大原扁理「20代で隠居」を読む

 副題は「週休5日の快適生活」とあって隠居といえど週に二日は働いている20代男性の話。だから、パーフェクトな隠居暮らしではないけど、世間の常識からすれば隠居と呼んでもいい。こんな若者のライフスタイル、どう思いますか。自分の息子や孫がこんな「隠居」になったら8割方は怒りまくるような気がします。しかし、いわゆる「引きこもり」息子に比べたらよほどマシとも言える。是か、否か。まあ、ふつうは「若者の隠居はアカン」に近い評価でせう。


この本を読んで思い出したのは、もっか中国でじわりと広がっている「寝そべり族」の話。受験戦争や出世競争から降りてしまい、日がな一日寝そべって暮らす怠惰な若者のことです。共産主義国家では絶対許されない「非国民」ですが、少数でもこんな人種がはびこっていることに他人事ながら国家の危機を感じます。大げさに言えば中国の「内部崩壊」の兆しかもしれない。


話戻して、著者、大原くんの生活スタイルの基本は「世間に同調しないこと」であります。なおかつ「世間と絶縁しないこと」。ここが「引きこもり」と違う。月収10万円、家賃2万7千円という世帯費で親や世間とどう折り合えるか、アイデア、ワザの見せ所です。これを披露するために本書を書いた。


経済的理由でスマホの所持を拒否した。(代わりに固定電話を引いた)すると、スマホを持つことで、いかに無駄な時間、無意味な会話、そして無駄な金を費やしていたかが分かった。スマホ排除でつまらない義理付き合いが減らせた。面白いのは、友人との通話はスマホ同士より、固定電話にかけてくる人は言葉遣いが丁寧ということ。固定電話時代のマナーが蘇るというわけだ。著者は読書が趣味だから、これだけのチェンジで読書時間が増えた。


こうして「週休5日」の暮らしを続けている。精神的に安定しているのは高卒後にほぼ世界一周の一人旅をして「ひとりぼっち」の何たるかを心身で経験していることが役立っている。ただ、最近になって気になることがある。週休5日はいいけど、それはほぼ「無言」の暮らしだ。なので、たまに外出したときや電話がかかったとき、言葉がスムースに出なくなった。失語症というほどでもないけど、なんか会話がぎこちない。(本を音読すれば?とおもうけど)


こうして大原くんは隠居暮らしを満喫しているのでありますが・・いつまで続けるのか、ここまで、という目処はないらしい。20代で隠居、なんて風流ぶっても将来には何の保証もない。ヘタすりゃ、知らぬ間に「週休1日のミジメな中年フリーター」に落ちぶれてるかもしれない。100%自己責任です。


dameo の想像するところ、5年、10年後のこのご隠居さんは普通に「上昇志向」のライフスタイルに転向して要領よく世間並み、又はそれ以上のプチ金持ちを目指すのではないか。そのとき、過去の隠居暮らしをネタにすれば個性を強調できる。もちろん、最新型のスマホを駆使してコネをつけまくり、一昔前の人間嫌い、世間嫌いぶりなんかコロリと忘れてるでせう。(2015年 K&Bパブリッシャーズ発行)

 

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