橋本治「そして、みんなバカになった」を読む

 名前は知ってるけど著書は読んだことのない作家の一人。履歴を見ると1978年から2019年に亡くなるまで160冊もの作品を生んだ多作の人で、なのに知名度はさほど高くなかった。ヒット狙い、世間に迎合するようなタイプの人ではなかったようです。そんな著者を「読んでみてみ、面白いよ」と応援するのが高橋源一郎氏。「まえがき」「あとがき」「帯」で懸命にヨイショしています。


タイトルは分かりやすいけど、本文は編集者との対話のかたちで構成されており、各章ごとに小さいテーマがてんこ盛りで軽く読みながすと何を言ってるのかよく分からないという印象です。それを察して高橋源一郎センセが応援文を書いたのではと勘ぐりました。編集者もずいぶん苦労したと思います。


日本人はなぜ等しくバカになったのか。意見の一部を紹介すると・・。その兆候は1960~70年ごろ、復興と経済成長で国民の暮らしは豊かになり、70年ごろには民放TVにバカ番組が登場する。出版業界も大成長し、それまでは子供の読み物だった漫画を大人も読むようになった。古今の名作の漫画版を読んで本物を読んだつもりになるバカもいた。漫画を読むのはかまわないが、漫画しか読まない大人が増えた。これがバカの増大を促した。


しかし、当時は経済成長もあって、多くの人が「豊かな暮らし」も実感できた。80年代になると不動産売買でのバブル景気が起こり、日本中が浮かれて「同じアホなら踊らにゃそんそん」状態に。そしてバブル景気崩壊。若者は後に氷河時代と呼ばれる就職難に遭遇した。漫画で育った若者に高いスキルがあるはずもなく、ブラック企業に吸い込まれる者が増えた。彼らは今や50歳とか、オジサン世代になっているが不遇を嘆くばかりである。そして、当然、子弟の教育にも影響する。本人の不幸が子供にもマイナスの影響を与える。


以上は橋本センセの考察のほんの一例です。日本中にバカが満ちることを憂慮しています。しかし、センセ、なんでございますよ、日本人の99,9%がバカに落ちぶれたとしても、先日紹介した佐藤優の本に出ている灘高生のようなスグレモノが0,1%いたら、そこそこ救われるのではありませんか。彼らを実務で支える優秀な人物が百万人(人口の1%)いたら、あとはバカでOK・・てな感じで。ロボットにこき使われる大卒社員ってすでにいるでしょうし。(2020年 河出書房新社発行)

 

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