杉江 弘 「乗ってはいけない航空会社」を読む

 同じ著者による「機長が語るヒューマンエラーの真実」も併読。2冊とも航空機事故に関わる評論で、著者はジャンボジェット機(B-747)の元機長。


幸いなことにここ10年くらい、国内では大きな航空機事故がなく、私たちは電車やバスにのるのと同じくらいの信頼感で飛行機を利用している。しかし、機械は予期せぬ故障を起こす。また、操縦のミスもあるから100%の信頼感はない。航空機への不信感は恐らく電車やバスより大きい、が常識でせう。


離陸と着陸、どちらが怖い?
 特に緊張するのは離陸と着陸の場面。で、「あなたは離陸と着陸、どちらの方が緊張しますか」と問われると「着陸シーンのほうが緊張する」と答える人が多いと思う。なぜ? と訊かれても答えにくいけど、感覚ではそうなる。


では、機長(著者)に同じ質問をすると明快に「離陸シーンのほうが危険」であると。乗客のリスク感覚と真反対でした。なぜ離陸シーンが危険なのか。
 トラブルの内容が多岐にわたるので答えにくいが、例えば、双発機の場合、着陸直前に片エンジンがストップした、場面と、離陸寸前に片エンジンがストップした場面を比べたら、後者のほうが対処しにくいことは素人でも想像できます。エンジン全開、全力疾走、機体が浮上しかけたときにエンストすれば・・・地獄です。


面白いのは人間のDNAで、素人はもちろん、プロのパイロットでもピンチが極限になると「こんな100トンもの物体が空を飛ぶこと自体が理不尽」という本能が蘇り、離陸をやめて地上に降りようとする。そのほうが安全だと思い込む。しかし、離陸を強行したほうが助かるケースが多い。10mでも機体が浮いたらゆっくり旋回して着陸しなおす(緊急着陸)ほうがベターだという。


こんな小さい「知識」を得るだけで、飛行機利用時のリスク感が変わります。現実の航空輸送は技術が進歩したぶん、事故の内容や原因も恐ろしく多岐、複雑になり、原因究明に2年、3年、かかることも稀ではありません。さらに、安全のための技術開発をしながら、一方で「合理化」の名目で機材のコストダウンや運航、整備の人員削減がすすめられています。そんな趨勢のなかで「安値」をウリにするLCCが発展しました。問題多々ですが、省略します。


さて、本題の「乗っていけない航空会社」とは・・・
 アブナイ航空会社の公的リストもあるが、ここでは、著者、杉江氏個人がセレクトしたものを紹介します。ワーストは15社、ベストは20社が選ばれていますが、それぞれ10社の社名と国名をコピーしておきます。


事故歴からみたワースト航空会社
アシアナ航空(韓国)          ②トランスアジア航空(台湾)
大韓航空(韓国)            ④トルコ航空(トルコ)
⑤マレーシア航空(マレーシア)      ⑥エジプト航空(エジプト)
⑦ガルーダインドネシア航空(インドネシア)⑧チャイナエアライン(台湾)
エールフランス(フランス)       ⑩フィリピン航空(フィリピン)


著者おすすめの安全度ベスト10の航空会社
ユナイテッド航空(米国)       ②デルタ航空(米国)
キャセイパシフィック航空(香港)   ④アメリカン航空(米国)
スカンジナビア航空(北欧3国)    ⑥ニュージーランド航空
フィンエアーフィンランド)     ⑧カンタス航空(豪)
サウスウエスト航空(米国・LCC)  ⑩ルフトハンザ航空(ドイツ)


なお、日本のJALやANAが見当たらないけど、ベストとワーストの中間くらいの評価かもしれません。著者は、事故発生率やパイロットの習熟度、待遇、などの要素をトータルで評価すると、米国の航空会社が一番信頼度が高いと述べている。まだ記憶に新しい「ハドソン川の奇跡」事故(2009年)も他国だったら奇跡は起きず、ビルや住宅街に墜落するなど大惨事になった可能性が高い。(2016年 双葉社発行)


<追記> dameo が乗ったあぶない飛行機
 書き終わって、ひょいと思い出した。昔々、自分もA級 「危ない航空会社」を利用したことがあると。5月16日に書いた「宮古島空港の思い出」の場面です。会社は「エア アメリカ」。空港施設の貧しさとヒコーキの頼りなさ、今じゃありえん、という低級空の旅を経験しました。とても珍しい光景なので、興味あればごらん下さい。
https://kaidou1200.hatenablog.com/entry/2021/05/16/125028

 

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