町田智弥「リアル公務員」を読む

 三十代半ばの地方公務員が世間話をするような軽さで公務員の実態を描いた本。知らない世界なので興味深く読みました。自分の考えるところ、公務員には二通りのタイプがあって、志望動機に住民生活の改善やまちづくりに貢献したいという<上昇志向型>と、競争社会で揉まれるのが苦手、生活の安定が第一という<安定志向型>。もちろん、中間タイプもおられるでせう。著者はむろん上昇志向型で、こういう人が増えたら、公務員への偏見も減るのではと思います。

 

 著者の話でわかったことは、地方公務員として就職しても、人事異動で省庁など国家公務員の職場へ出向し、激務に耐えてリターンする人は間違いなく出世コースに乗るだろうということ。安定志向型と目される人は選抜の対象にならない。(だからといって本人は不満をもつわけでもない)


逆に、国家公務員も地方へ出向するのは常で、地方で実績を挙げる人は幹部候補になるのがフツーであります。要するに、有能な公務員も民間企業と同様にお役所という競争社会で鍛えられて実力を身につける。・・と、こう書けば<安定志向型>の職員は裏方的存在に思えてしまうが、窓口業務などで誠実に仕事をすれば住民に評価され、役所全体のイメージアップにもなる。税務署や登記所といったお堅い役所でもちょっとしたサービス精神で明るい雰囲気になるハズであります。


菅政権になってから急に「デジタル庁をつくる」「ハンコ決裁をなくす」といったお役所仕事改善論が唱えられ、実施されています。国民はみんな賛成しますが、当の役所では抵抗感が強いはず。タテマエはOK、ホンネは反対でせう。


公務員は決裁書類のどこに自分のハンコを押すか、でポジションを認識しており、著者の経験ではミリ単位で押すポイントが決まってるという。これを無視するとものすごく叱られるそうだ。


ある部署では「書類は右綴じ」という不変のルールがあって、新人が横書きの書類を左綴じにしたら「やりなおせ」と右綴じに変えさせられたという。この職場って全員<安定志向型>メンバーしかいないのでせう。役所には民間企業ではあり得ない「口承文化」なるものが存在する。ルールではなく「掟」が仕事を支配しているらしい。


そういえば、かの「10万円特別給付金」手続きでの「お役所仕事」ぶりもひどかった。大阪市の場合、マイナンバーカードで申請した人のデータを全部紙にプリントして「紙申請」に変換してから決裁した。このため、支給期日は全国でビリに近いブサイクなことになった。なんのためのカードなのか。


お役人、お役所仕事、と頭に「お」がつくと、途端にネガティブなイメージに変わるのはなぜか。尊称語をつけて軽蔑する住民もイジワルだが、これでお役人がカリカリ怒ってるわけでもない、テキトーにぬるい世界。
 優秀な若者はまず公務員を目指す・・そんな時代になってほしい。(2011年 英治出版発行)

 

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