太宰治「人間失格」を読む

梅田の書店の店頭に平積みされていたこの文庫本、表紙が黒一色という意表をつくデザインで、昔、読んだことあるな、と思いつつ買ってしまった。装幀家さんの勝ちであります。この新潮文庫版、昭和27年が初版、そして令和2年で207刷りというからすごいロングセラーです。


著者、太宰治、即ち本書の主人公でもありますが、絵に描いたような「丸出駄目男」ぶりで、その情けない有り様が最後の10ページくらいに綴られる。強制的に精神病院へ連れてこられて「狂人」のレッテルを貼られた。「今にここから出られても、自分はやっぱり狂人、廃人という刻印を額に打たれる事でしょう。人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました」


物語では無く、リアルな自分をこのように描いてはもう死ぬしかない。で、太宰は自殺・・ではなく、愛人と心中する。おいおい、死ぬなら一人で死ねよ。相手の女が迷惑だろうが。と、世人はおもうのですが、そこがまた太宰のダメなところで「一人ではよう死なん」と意気地がない。


太宰は人生で5回自殺を試み、しかし、失敗続きというドジぶりで、若い頃の心中では相手の女が死亡し、自分は助かるという、もろカッコワルイ経験もしている。人間失格の前にミジメな自殺者失格も経験しているのです。で、5回目はペアで玉川上水に入水、こんどはうまく死ねた。


1948年、太宰治、心中・・は、当時、大ニュースになった、ということを自分は覚えています。9歳か10歳だったのに、母がこの事件を興奮して駄目男に話した。こちらはダザイオサムってなんやねん、でありますが、そのとき覚えた言葉がなぜか「玉川上水」だった。太宰より玉川上水。で、今でも玉川上水の名を聞くと「あ、太宰が心中したとこね」と0,2秒くらいで思い出す。ガキのころから人名より地名に興味があったのかもしれません。


と、なんか悪口ばかり書いてますが、しかし、太宰に限らず、この時代の作家の読みものには魅力があります。どの辺が?と問われても答えにくいが、なんか時代の空気感みたいなものが伝わり、郷愁になる。仮に、戦後生まれの作家が太宰と同じような放蕩人生をおくったら「許さん!」気分が勝ってしまうと思います。マッタク、ええかげんなもんです。(昭和27年 新潮社発行)

 

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