朝井まかて「グッドバイ」を読む

 Sさんから恵送された新聞連載小説。丁度一年分をまとめるとこんな厚さになるのかと357頁のヴォリュウムを確かめたものです。連載小説って一回の字数がきっちり決まってるので、そのまま繋げて単行本にすると継ぎ目が気になったりして・・。そこんところは細々と手を入れるのでせう。


主人公は大浦慶(おおうら けい)。幕末から明治にかけて長崎で緑茶の輸出でしっかり儲け、しかし、大失敗(詐欺被害)も経験しつつ、大げさにいえば国益に寄与したおかみさんの人生ドラマ。この時期、活躍したのは男ばかりなので、その分目立ったことは確かですが、一方で女ひとり、男社会で世渡りするしんどさも現在の比ではなかったと思います。そこんところは朝井流筆裁きで行け行けどんどん、恐らく実際の人物像より明るく描かれてると想像します。


一介の商店主なのにドラマの主人公になったのは当時活躍した男たちとの多彩な付き合いのためで、教科書に載っている大隈重信岩崎弥太郎、グラバー、、亀山社中(日本で最初の商社・坂本龍馬も関わった)、などが登場する。大浦慶の学歴?は今でいえば「小学校卒」程度だから、それで世間を支配するような男たちと付き合った。引っ込み思案とは真逆の性分、度量の持ち主です。そんな広い付き合いのなかで慶は貿易での儲けの一部を倒幕の志士たちの援助に使った。そこでグラバーとの関わりも深まる。

 

 但し、本書ではグラバーの表裏ある取引のことは描かれず、友好面だけ書かれている。グラバーにしたら、軍艦や武器や弾薬は幕府側、倒幕派、両方に売った方が儲かるのだから、けっこうアコギな商売でがめつく稼いだ気がする。


大浦慶が輸出で扱った茶葉は主に「嬉野茶」産地は佐賀県。有名ブランドになったのは明治時代の増産で輸出はむろん、国内でも名を広めたからでせう。慶は嬉野茶の恩人です。現在は日本食の海外での普及で緑茶の輸出も増えているけど、日本酒の人気ほどではない。健康に寄与する点ではコーヒーや紅茶にひけをとらないのだから、もっと輸出に力を入れてほしい。外国が容易にマネできない点も有利です。(2019年 朝日新聞出版発行)

https://nagasakicci.jp/publics/index/320/

参考映像(NHK)
https://www2.nhk.or.jp/archives/michi/cgi/detail.cgi?dasID=D0004190033_00000

 

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