齋藤 孝「50歳からの孤独入門」を読む

 齋藤センセのハウツーもの著書としては少し異色というか、内容がやや暗いめというか・・人生相談みたいな内容の本。心の機微にふれる話が多いのですが、まとめの上手さはいつも通り、主張はすれど押しつけないソフトな語り口もふだんの齋藤流です。 dameo は定年退職を経験していないけれど、基本は会社で定年を迎える人向けに書かれた本です。


ポジションをわきまえる
 50歳が孤独人生のはじまり、なんて自覚してる人は皆目いないと思いますが、センセは「これから下り坂でっせ。対策しとかな難儀しまっせ」と説きます。う~ん、下り坂なあ・・。50歳は仕事や報酬の面では伸びしろがなくなり、よくて現状維持、悪ければダウンという境遇になります。しかし、当人は仕事での実績や達成感において自負や自信大なる状態なので、ルールと分かっていてもすんなり受け入れにくい。でも、逆らえない。


昭和時代は大企業なら「子会社へ出向」のかたちで折り合いをつけるケースが多かったけど、現在はもっとダイレクトに「降格・減給」措置がとられる。この場面でAさんは辞職届を出す。Bさんは会社のいいなりになる。これって、孤独なんか感じてる場合じゃないでせう。出るも残るも必死の覚悟がいります。Aさんの例は、たとえば、家電の大メーカー社員がアイリス オーヤマに再就職する場合でせう。成功すればかなりハピーな人生が送れそうです。


齋藤センセが危惧するのはBさんの生き方です。「身の程をわきまえよ」「プライドを捨てよ」「自責、羨望、嫉妬から脱する」と、ま、常識的に説くのですが、これで孤独を受容し、心の安定を得られるのか。なかなか難しい。
 昔読んだ本に書いてあったことに「世間における自分のポジションを自覚すること」も教養の一面であると。自分は世間の奈辺に位置した人生を送っているのか、自覚しておくべきだと言う。

 

生涯つきあえる趣味を持とう
 読み終わって、なんか物足らないなあと感じ、自分なりに考えたことは、本書などで孤独や人生を学習するとともに、ヒマつぶしではない、生涯つきあえるような趣味をもって情熱を注ぐことが大事ではないかと。うまくいけば齋藤センセのいう「人生を支えるアイデンティティ」になり得ます。


今までに何人か「生涯無趣味」という人に出会いましたが、孤独への耐性は十分ある人でせう。しかし、孤独で無趣味な人にも「魔が差す」ことがある。
 電車の中やエスカレータで「盗撮」してタイホされたオジサンたち。生涯最初の「趣味」で人生をパーにしたのではないか。この手の犯罪者には性格的に共通点があるような気がします。(2018年 朝日新聞出版発行)