福嶋聡「紙の本は、滅びない」を読む

 いくら本が好きとはいえ、京都大学文学部哲学科を卒業していきなりジュンク堂に入社、というのは珍しい。入社後、各地の店を巡って現在はジュンク堂難波店の店長さんを勤めている。そして紙の本への愛着からこの本を著した。ビジネスマンというよりは文化人店長であります。


題名を見て、紙の本が電子書籍よりいかに優れているかを説く内容だと想像したが、それは問題の一端に過ぎず、中味が濃い、奥行きが深い内容になっています。さすがは哲学科卒おじさんの言論で説得力があります。言わんとするところ、全面的に賛成です。こういう人が衰退を続ける書店ビジネス界にいることは頼もしい。


とはいえ、出版界でのデジタル化の波は大きくなり続け、読書イコール電子書籍でという人も増えてきた。一番顕著なのは学術論文で今や紙で情報発信する人なんかゼロに近い。デジタルの優位性が最もよくわかる世界です。それは認めつつ、紙の本の良さを説きます。


高邁な紙本文化論は割愛して、単純な話、デジタル情報の最大の弱点は記録と再生に電気が要ることでせう。機器の性能がいくら良くなってもこの弱みはなくならない。この壁を越える発明がなされたらノーベル賞10個くらい差し上げてもよい。駄目男が案じる身近な心配は情報を記録、再生するためのフォーマットがころころ変わることです。


フロッピーディスクが開発されたときは、そのサイズの小ささ、記録容量の大きさに感心しましたが、たちまちCDやDVDにとってかわられ、これならあと何十年かは使えると思ったのに、数年後には無茶小さいメモリーカードが出現してCDはたちまち時代遅れになってしまいました。


それでも大事に保管すれば100年くらい使えるのならマシですが、そういう品質保証はなさそうだ。デジタル情報メモリーだから寿命は長いというわけでもないらしい。長期保存の点では紙よりはるかに信頼性が低いメディアであります。ということは、憲法の原文や外交条約の文書といった超大切な情報は恐らく100年後でも紙で保存される。肝心な場面では紙のほうが優位でせう。デジタルは今のところ、便利、効率的、以外で紙を凌ぐことはできない。(2014年 ポプラ社発行)

 

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