澤 章「ハダカの東京都庁」を読む

 公務員のなかではマジメの上にクソを載せたようなイメージがある都庁の人事課長が書いた都庁暴露本。このために著者は天下りのポストと収入をパーにしてしまった。しかし、それは想定の上で出版したのだから、ま、しゃ~ない。我慢して頂きませう。


さりながら30年も勤めた職場をこんなにボロクソに描いて出版するなんて・・考えてみれば、相手が都庁だから書けたといえるかもしれない。もし、民間企業だったらかえって書きにくいのではないか。元ソニーの社員、元ソフトバンクの社員、元三菱商事の社員、だったら社長や上司ををこんなにボロクソに書けただろうか。ソフトバンクの社員が孫正義の悪口を書くのと、都庁の職員が小池知事の悪口を書くのでは、なんかニュアンスが違うような気がします。


全編悪口だらけかといえば、ひとつだけホメてる話がある。それは都庁には学閥がないこと。特定の大学を贔屓にして採用するとか、人事で重用するといった差別はない。これは立派だと著者は褒めています。但し、建築とか技術系の職ではそこそこあるらしい。単純に代々の知事も学閥なんかに興味がなかったのかもしれない。


30年間に仕えた知事は6名。誰がいちばん優れた知事だったか。著者は鈴木俊一氏(1979~1995)を挙げている。多くの古参職員が鈴木知事時代を「良かった」と懐かしむ。何が良かったのか。ハッタリがなく、ひたすら地味、堅実に仕事をこなした。そんなの当たり前のことでせうが・・だが、以後の知事はこの「普通に仕事をこなす」能力が欠けた「バカ殿」ばかりだった。


青島幸男石原慎太郎猪瀬直樹舛添要一小池百合子・・鈴木先輩に比べたらB級ばかり。特にひどいのが小池百合子だという。ま、著者は小池サンに直接バッシングされたのだからホメるはずがありません。もっとも、知事に言わせれば「選挙で選ばれましてん、選んだ都民もアホちゃうか」と五分五分論で煙に巻きたいでせう。


 石原知事時代に一つだけ嬉しかった思い出がある。北朝鮮拉致問題に関して知事が被害者家族を貶めるような失言をしてしまった。議会で謝罪するハメになったとき、著者は知事室に一人呼び出された。「キミ、すまんが謝罪文の原稿を書いてくれ」と。しかも、議会開催30分前だ。ドヒャ~~と驚き、しかし、もう逃げられない。その場で必死で原稿を書いた。知事は議会で文章通りのセリフで謝罪し、一件落着した。べつに名文とは思わないが後刻、知事にに文章の上手さを褒められた。石原知事が議会で謝罪したのは一回きりだった。


小池百合子橋下徹・・似ている陰湿人事
 橋下徹大阪府知事になったとき、上下間の風通しを良くするためと称してヒラの職員でも意見があれば直接知事宛にメールできるシステムをつくった。一方、小池知事は同じような意図で庁内に「ご意見箱」なるものをつくって職員が気軽に意見を述べるようにした。いずれも一見、民主的な情報交換に思えるが、密告をそそのかす方法でもある。
 こんな方法で職員の情報を集め、こいつは敵か、味方かを見分けて敵を排除する(冷遇する)。小池知事はこの敵味方の峻別がきついらしい。定例の記者会見でも開始直前に職員に参加記者の名前と社名、記者が座ってる場所を記したメモをつくらせて手元に置き、気に入らない記者は手を挙げても指名しない。職員も記者も「こいつは敵か味方か」と峻別する。


日本で最初の女性首相になりたいという野心、願望は悪くない。むしろ応援したいくらいです。でも、残念ながら「器」が伴わない。他に誰かいないかなあ。(2021年 文藝春秋発行)