小沢康甫「暮らしのなかの左右学」

 自然界にも人間社会にも<左右問題>がたくさんあって、しかし、たいていは深刻に考えずに受容している。殆どの左右問題は暮らしに溶け込んでいる。


それでも、なんでやねん、と気になる左右問題がある。陸上のトラック競技はなんで左回りに走るのか、不審に思っていた。その答えが本書にかいてある。

① 人の心臓はやや左寄りにある。走るときは心臓を保護しようという本能から内側にするため左まわりになる。

② 男性の場合、睾丸の左右のうち、左の方が低い位置にあり、心臓も左よりにあるゆえに身体の重心は左にかかる。走るには重心寄りに、つまり左に回った方が楽。

③ 足裏の面積を比べると、左は右足より広い。これは左足で大地をしっかり踏まえ、身体の安定させるに役立つから左廻りがベター。

④ 利き手の左右に関係なく、右足は姿勢やスピードをコントロールし、左足は大地をしっかり踏まえるに適している。ゆえに、左廻りがベターである。

⑤ 観客の目線でいえば、視線は左から右に動く方がスムース。英語などヨコ書きの文章は左から右へが標準、即ち、見やすい。


 これだけくどくど説明されると納得してしまいます。睾丸の左右がアンバランスだなんて初めて知りました。ただし、左廻りが決まったのは1908年の五輪ロンドン大会からというから意外に歴史は浅い。


しかし、たまに競馬の中継放送をみると、お馬さんはいつも右回りで走ってます。何でやねん?・・その答えも書いてあります。馬の足の機能についてくどくど説明しています。人間とは違う理由です。但し、百%右回りではなく、ローカル競馬では左廻りもあります。


野球はなんで左廻りやねん。これの答えも納得出来ました。もし右廻りなら内野手のカッコいいファインプレーのシーンガタ減りでせう。いや、それなら野手のレイアウトも変わるはずだから、一概に言えないか。


もっと日常的なところではエスカレーターの立ち位置左右問題。全国的には「左立ち」がスタンダードで、右立ちは、大阪、奈良、神戸、和歌山に限られる。
京都はどうか。自分の経験では概ね左立ち、即ち、東京と同じ。大阪からたまに京都へ行くとつい右立ちして胡散臭そうな眼で見られる。
 これで落着かと思ったら、どっこい、アンチがいた。仙台市営地下鉄エスカレータは右立ちだと本書に書いてある。なんで?・・しかも、地下鉄当局で「右立ち」を利用者にお願いしたことは一度もないと。地下鉄開通時は左右混在だったけど、時間を経て自然に右立ちが増えて安定したのではないか。それだったら人間の本能(感覚)の選択で一番自然な成り行きと言えます。(2009年 東京堂出版発行)