西岡文彦「ピカソは本当に偉いのか?」

 いつかはこんな本が出るだろうと思っていたけど、10年前にこの本が出ていました。20世紀最高のアーティストにイチャモンつけるなんて勇気要りますよ、ホント。しかも著者は自ら版画家であり、多摩美大の教授です。タイトルをどうするか、あれこれ迷ったと思いますが、読者としたらこれでよかった。気遣いして半端に変化球投げるより、こんな直球表現のほうがよかった。


ピカソの作品は本当に美しいのか
ピカソの作品は本当に上手いのか。


著者が掲げるこの根本的な問いに対して、著者自身、どう答えるのか。
ピカソの作品は美しくない
ピカソの作品は最高に上手い


美しくはないけど、ウデは最高に上手い。これが著者の見解です。
 そしてピカソの達者さを認めつつ、ピカソが持って生まれたセールスマンとしての優れた才能も皮肉を交えて評価している。特に成長期であった若い時分には顧客や画商の意を汲んで、自分の個性や主義にこだわらず、相手の気に入るような作品を提供した。なんかアーティストらしくない態度ですが、これもピカソの才能だという。ピカソは青年期からヘンテコな絵ばかり描いたのではない。実にいろんなタイプ、表現の作品をつくり、ときに、パトロンの要求に阿ることもあったが、長い目でみればこんな曲折も成長のモトになった。


人を驚かせる暴力性や破壊的表現も、ピカソの個性であると同時にクールに計算されたところがあって、即ち、優れた営業的センスによって市場価値を高めることに成功した。こういう才能を持ち合わした作家は珍しい。バッハやモーツアルトが顧客である貴族の趣味趣向に合わせて作曲した作品を「だから、芸術価値のないゴマスリ作品」と言わないのと同じだ。(これはdameoの見解)


作品論を離れて著者が本気でピカソを批判しているのは生涯続いた「女たらし」ぶりである。ピカソは生涯に二人の妻と6人の愛人と暮らした。8人のうち二人は自殺した。世間で言う「仲むつまじい夫婦(愛人)」像はついにつくれなかったらしい。ピカソと暮らして本当に幸せだったといえる女性は一人もいなかった。ピカソは自分から別れ話を持ち出しても手切れ金はケチった。


こんなピカソだから世界中の女性に嫌われたのかといえば、そうではない。結城昌子著「ピカソ・描かれた恋」(小学館発行)という本を開くと、セクハラ、パワハラなんのその、全編ほぼベタ褒めなのだからため息が出る。
 ピカソが20世紀に亡くなったのは幸いだったといえる。もし今世紀に活躍する人物だったら、偉大な芸術家の裏の顔である、不貞、変態ぶりが世界中からバッシングされたかもしれない。(2012年 新潮社発行)

 

90歳で描いたピカソの最後の自画像

どこが上手いのかなあ・・・