斉藤光政「偽書<東日流外三郡誌>事件」を読む

東日流外三郡誌」は「つがるそとさんぐんし」と読みます。著者は斉藤光政。ありもしない歴史をあるかのように装って、無名の男が捏造した古文書の題名です。本書はその発見からミジメなラストまでの顛末記です。


青森県津軽の片田舎に、和田喜八郎という男がいた。彼がライフワークとして執心したのが歴史の捏造であり、その表現方法として、インチキ古文書やインチキ神社をつくった。そんなの、すぐバレるでしょ、と誰しも思うが、そこを必死のパッチでこらえ、ウソの上塗りを続けて、なんと古代史の研究者まで騙してしまった。


そのアイデアと情熱と継続力たるや、マルチ商法なんかやってるB級のウソつきにはとても真似できない。よって、dameoも、ほんま、しょーもない男やなあとバカにしつつ、なんだか「それなりに努力賞」を呈したい気持ちになるのでありました。この事件の背景には津軽(東北)という風土があり、東北人の劣等感や中央への反感が歴史捏造のエネルギー源になったかもしれないと著者は述べています。


大和政権が誕生する遙か前に、大陸から移住した民族が津軽地方に根を降ろし、独自の文化を築いた。その歴史を延々と書き連ねた古文書が「東日流外三郡誌」であり、発見者、所有者が和田喜八郎であると。ホントは作者なんですけどね。ハハハ。


ウソつきの才能に「コピー型」と「創造型」があるとすれば、彼は創造型の(しばし、マヌケでもあるが)才人であります。例えば、かの福沢諭吉の有名な言葉「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」は、実は東日流外三郡誌の文から引用したもので、福沢諭吉は「ここから引用した」旨のことわり書きの手紙を和田の先祖に書いた、と言うのであります。

 
 こんなインチキ、すぐにバレてしまうのですが、そんなことで、ビビッたりしない詐欺師は、巧妙な手口で、このニセの歴史を地元の村の「村史」すなわち公文書に掲載することに成功します。役所のお墨付きというので、メディアの注目するところとなり、本が出版され、古代史ファンのおおくが騙されます。その中に、邪馬台国九州説を唱えた古田武彦もいた。


その道の専門家がどうして易々と騙されてしまったか、まか不思議というよりありませんが、基本的にはインチキ古文書の出来映えがよかったからだと思います。努力賞に値するという由縁です。
 このインチキ古文書を本物だと擁護したために、古田センセイは大いに信用を落としてしまうのですが、実は未だに擁護派であって、騙されたなんて一言も言ってない。その頑張りにも努力賞をあげたくなります。ウソもとことん徹底すると本物になる?・・いや、そんなアホな。


著者は地方新聞の記者で、丹念な資料収集と解読を重ね、キッパリと擁護派を切り捨てている。その努力こそ真に賞賛に値します。本書は友人T君からのプレゼント。文庫本ながら、400頁超の力作で、読むのに10時間以上かかりました。(新人物往来社 新人物文庫 2009年発行)

 

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