堀江貴文「ぼくたちはもう働かなくていい」を読む

 AIやロボットの最新情報をわかりやすく解説する本として手軽に読めるのが良い。かつ、題名のように刺激的な表現で売り上げをアップする点、なかなかの商売人でもあります。難点をいえば、先進技術を紹介するぶん本の賞味期限が短いことで、古本になれば二束三文、ゴミ扱いされそうです。


AIやロボットの性能、品質が向上すると人間の仕事が奪われ、失業の憂き目にあう、というのが庶民の不安でありますが、著者は「その通り」と人間に同情しない。長年の経験やカンに頼ってきた仕事はどんどん自動化され、大手の物流倉庫なんか広いフロアに人影はない。三年くらいまえにヤマト運輸の最新物流倉庫を見学したことがあるけど、商品の選別、搬送のスピードの早さに驚いた。仕分けなんか一個100分の1秒くらいかもしれない。


経験=命、みたいな感じでつくられてきた日本酒も杜氏主役の生産は減りつつあり、あの「獺祭」も社長が代替わりして杜氏制度を廃し、コンピュータシステムによる生産になった。世にこれを非難する声が起きないのは品質が落ちないという実績をつくってしまったから。いまや、酒造りを担うのは杜氏ではなく、高度なプログラムをつくるエンジニアであります。


‥という具合に、世の中どんどん進歩しているのに、世間には「額に汗して働くのがあるべき労働者の姿」と古典的労働感に囚われてる人が多い。著者はそう言う「食べるためだけの労働に人生を費やしてオシマイ」な人を明快にバカ呼ばわりする。一度きりの人生、もっと楽しく過ごそうではないか、と訴えるのであります。よって、著者は「ベーシックインカム」制度の創設に賛成だという。何を言ってもムダなレベルの人間は三度のメシだけ与えて放置せよと。


時代の進歩に合わせたライフスタイルを創造、実践せよとハッパをかけるのですが、正直言って「なんとなく薄っぺら」感もする。発言に重みがないのはこの人の生来のキャラクターみたいで、思いついたことを取りあえず言ってみる。それを批判されても気にしない。


  たとえば、178ページ。「日本のGDPは1980年から右肩上がりを続けている。2018年のGDPは550兆円を越えている。30年あまりで倍以上の増額だ」と。しかし、正しく言えばこうなる「日本のGDPは1980年から右肩上がりになった。しかし、1990年以後は横ばいを続けている」であります。日本人の賃金が30年間横ばいである原因がこれです。
 ついでに179ページ。「世界中に富は有り余っている。食料なんて生産されたうちのほとんどを廃棄している。社会の財は増えまくり、どうして分けていこうかとあらゆる研究機関で考えているのが現状だ」


 この本が2019年の出版でヨカッタ。言うことがなんとなく薄っぺら、と思われても仕方ないのでは。ホリエモンの本はマユにツバして読みませう。しかし、世間には堀江氏の思想に共感する人も多い。それを見越して「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)というオンラインサロンを立ち上げ、最新のテクノロジーを利用した学習と組織作りを目指している。(入会は有料) 興味ある人はのぞいてみて下さい。(2019年 小学館発行)
https://salon.horiemon.com/about