読書感想文

筆坂秀世日本共産党中韓」を読む

 18歳で日本共産党に入党、以来約40年間活動し、党内で第4位の政策委員長まで務めた筆者が、党の歴史やもろもろの内情に愛想をつかして離党し、今じゃ共産党とは真逆の保守の立場でモノを言ってるのだから、まあ、難儀な人であります。本人は生涯に全く異なる二つの思想を学ぶ希有の体験ができたとハンセーしているようすもない。こんな人物を出世させた共産党も人を見る目がなかった。離党するだけでなく、本書では堂々と共産党の悪口を述べてるのだから、くそ、どついたろか、このがきゃ~~、と切歯扼腕であります。日本以外の国でこんなに変身したら暗殺される可能性もある。


■根っからの「護憲政党」はウソ
 共産党は最も強力に「護憲」を唱えてる政党であります。二言目には「平和憲法を守ろう」と言ってる。なので、筋金入りの護憲派みたいに思ってしまうけど、それは間違い。逆に、唯一「改憲」を唱えていた党だった。


 新憲法の草案に関して、1946年8月に野坂参三はこんな演説をしている。天皇制の存続には反対、というのはわかるが、憲法九条の草案については「当草案は戦争一般の抛棄を規定しております。これに対して共産党は他国との戦争の抛棄のみを規定することを要求しました。さらに、他国間の戦争に絶対に参加しないことも要求しましたが、これらの要求は否定されました。この問題は我が国と民族の将来にとって極めて重要な問題であります。ことに、現在の如き国際的不安定の状態のもとにおいては特に重要である。現在の日本にとって、これ(第九条の草案)は一個の空文に過ぎない。われわれは、このような平和主義の空文を弄する代わりに、今日の日本にとって相応しい、また、実質的な態度をとるべきと考えるのであります。要するに、当憲法九条の二項は我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危うくする危険がある。それゆえに、わが党は民族独立のためにこの憲法に反対しなければならない」(223頁)


なんのことはない、自衛のための軍事力は必要だ、と主張している。以後の共産党とは真逆の思想であります。「一貫して護憲を唱えていた」なんてウソでした。現在よりずっとリアルに世情を見ていたとも言える。こんなカッコ悪い前歴があること、今の党員さん知ってるのでせうか。


東京裁判を〇とする共産党
 反米を看板にしている共産党なのに、米国が主導した東京裁判極東国際軍事裁判)には文句を言わない。なにもかも日本が悪かった、の見方にハイその通りと従順であります。ま、戦前、戦時中に弾圧された恨みがあるから、心情はわかりますけどね。今さら異を唱えても仕方ない裁判でありますが、東京裁判を不当とする考えはずっとくすぶっている。どんな裁判であれ、基本のキは中立の立場で行われるべきなのに、東京裁判は勝者が敗者を裁いた裁判だった。日本への復讐を正当化するための裁判といってよい。


それなら、もし、日、独、伊の連盟が勝者になったばあい、この三国で米、英、仏、等の敗者を一方的に裁いてよいということになる。米英仏にどんな罪をかぶせて裁くのか。ヒトラーが勝者側にいるなんて悪夢でありませう。ほとんどの日本人は東京裁判の正当性になにほどの疑問ももたないが、これこそGHQによる洗脳の効果であります。


■原爆は人類に有益ともいった共産党
 原子力発電所は廃止、も日本共産党の看板政策であります。東日本大震災以後は原発=悪と決めつけている。しかし、歴史を遡ればこれもウソでした。敗戦時点では原爆や原子力に関する知識が十分ではなかったために、おそろしく次元の低い原子力論がまかり通っていた。今なら小学生にも笑われそうなお粗末な話がある。1948~1950年ごろに共産党は「原爆パンフ」等の啓蒙誌で原爆(原子力)の怖さと有用性をPRしている。


「独占資本主義のもとでは原子力は動力源として使えず、爆弾としてしか使えない。なぜなら、原子力(発電)を動力源にすると、資本主義は生産過剰になり、世界恐慌に突入する。それに対して、社会主義ソ連では平和産業が発展する」「原爆で大きな川の流れを逆にするとか、大きな山を取っ払って、これまで不毛の地といわれた広い土地が有効に使われる」云々・・。同じ原子力(原爆)でも,資本主義国が使うと不幸をもたらすが、社会主義国が使うと、平和と繁栄に役立つ、そうであります。読む方が赤面するような幼稚な原爆論を当時の最高幹部が書いていた。(183頁)


共産党は野党のなかでは一番の老舗であります。老舗のわりには不細工な過去しかないということを本書は暴いている。それはさしおいて共産党に明るい未来はあるのか、といえば、ありませんね。党員、シンパの高齢化が進んでるのに若者は明快に共産党が嫌いであります。財政難で党の運営もままならなくなり、政府に政党交付金を申請する事態になるかもしれない。そのとき、日本共産党は「死んだ」といわれるでせう。(2015年 ワニブックス発行)