馳星周「少年と犬」

 本猿さんの感想文に触発されて読みました。犬が主人公の物語なんて、もしや小学生?のときに読んだ「フランダースの犬」以来か。ふる~~~~~~~。
 雑誌「オール読物」に連載した6編の短編小説をまとめたもので、半分くらいはアホな人間とカシコイ犬の物語。一番の優れものはラストの「少年と犬」で背景に東日本大震災熊本地震が描かれる。


岩手で被災し、熊本へ移住した主人公はある日農道でヨレヨレに弱った犬を拾う。動物病院へ運び、診察してもらうとマイクロチップが見つかり、生地は岩手県だとわかった。野良犬が岩手から熊本までどうして移動できたのか・・。
 それはともかく、犬は主人公の家庭に引き取られた。ひとり息子のHは震災のショックで言葉を失うという難病を負ったが犬とふれあううちに感情表現が豊かになり、ついに言葉を発するまで回復した。童話ならここでハッピーエンドになるところ、大人向き作品としては甘すぎるのでラストは熊本地震で犬が子供を守るために犠牲になるという悲劇で終わる。


犬と猫を比べたら、飼い主への忖度では犬のほうがはるかに上であること、誰しも認めるでせう。犬の人間への忖度あればこそ物語が生まれる。ということは、その前に作家は「いぬの気持ち」を理解すること、すなわち、犬への忖度が大事であります。むろん、犬の気持ちなんかわかるはずはないが、そこのところは想像力と表現力で読者の心をつかむ「忠犬物語」を創造する。それでも当作品はフィクションとしてはツツ一杯のストーリーで、これ以上話を飛躍させたら読者はしらけるでせう。(2020年 文藝春秋発行)