倉橋由美子「大人のための残酷童話」を読む

 発想がユニークなので話題になった本ですが、読まずじまいで忘れていたところ、ある日、古本屋の100円ワゴンでみつけました。発売以来三十数年ぶりに購入したわけです。


期待して読んだら・・なんか「ハズレ」の印象です。誰でも知ってる童話のパロディだと想像していたけれど面白さではイマイチ、むしろ、困惑した読者が多かったのではと想像します。新潮社のPR誌「波」に連載された小品をまとめた本なので作者が本気で書かなかった?かもしれず、文学的価値は小さい。


しかし、奥付を見ると、1984年から93年までの10年間に47刷というロングセラーを遂げており、当時は人気作品だったことは間違いなく、だったら、自分の評価が間違っているのかとフクザツな気分になりました。


採用されてる童話は、一寸法師、浦島、養老の滝、かぐや姫、など有名作品と名人伝、安達ヶ原、など。外国作品では白雪姫などの他に「虫になったザムザの話」もあり、これは、カフカの「変身」をリメイクした話です。


題名通り「大人のための残酷童話」に仕上がったのは「かぐや姫」くらいでせうか。月へ帰るときにダダをこねたかぐや姫はむかっ腹をたてた武士に切りつけられると一瞬に醜い肉の塊になった。嘆き悲しんだ帝はその亡骸をせめて天に一番近い山に運び、荼毘に付したが、いつまでも燃え尽きることなく煙をあげていましたとさ。オワリ。・・ぜんぜん面白くないですよ。


「安達ヶ原」は同名の謡曲(今春流では「黒塚)のもじりで原作のラストシーンは老婆の食べた人間の死体の悪霊を旅の僧が念仏のチカラで退散させるのですが、倉橋版では必死で逃げる坊さんを悪霊が追いかけ、ついに捕まえて殺してしまう・・という残酷物語になります。正義の念力、法力、役立たず・・であります。


カフカの「変身」。原作を読んだ人でもラストシーンの細部を覚えてるひとは少ないのではと思います。父親の暴力によって自室で亡くなるのですが、倉橋版では家族がザムザを家に残してピクニックに出かける。置いてけぼりのザムザは腹をたてて郊外の広場で家族に追いつく。これに怒った父親は缶詰をザムザに投げつけた。パコンと命中したザムザは数十本の脚を痙攣させながら息絶えた。この事件で家族は町の人から相手にされなくなり、いっそザムザみたいな虫になりたいと言いながら死ぬまでミジメに暮らしたそうです。オワリ。


どれを読んでも「なんだかなあ・・」であります。こんな作品が10年間も売れ続けたなんて不思議でしようがない。さりとて、倉橋センセの他の作品を読もうという気も起こらないので、出会いの一冊が駄作であった不運を嘆くしかありません。唯一、是とするのはかなづかいが「旧かなづかひ」で書かれていることです。自分と同じ好みだし、童話の文体によく馴染んでいると思います。(1984年 新潮社発行)