著者の絶筆「死への道程」は文芸春秋四月号に掲載され、3月13日、当ブログで紹介しました。幸いにも同号では石原氏の芥川賞受賞作「太陽の季節」とその選評全文も掲載されたのでトクした気分で読みました。芥川賞作品を読む楽しみの三分の一くらいは「選評」を読むことにあり、ゆえに、単行本では読んだことが無い。
受賞は昭和30年(1955)。そのとき dameo は16歳。みなさんは大方生まれてなかったでせう。本書は読まなかったけど、世間で大きな話題になったことはうっすら覚えています。
物語は、べつに何と言うことも無い風俗小説で、コレというアイデアもなければ、センスのいい文章もない。今ならB級テレビドラマの脚本相当の評価しか得られないでせう。しかし「ガサツで荒っぽい」印象が新鮮と受け止められた。細部は欠点だらけだけど、なんかパンチがあるぞ。これで点数を稼いだ。
いっぽう、芥川賞というクオリティを考えると、こんな雑な風俗小説に賞を与えても良いのかという意見もあった。最終「太陽の季節」受賞に賛成したのは、石川達三、舟橋聖一、の二名、しぶしぶ賛成は井上靖、川端康成、中村光夫、瀧井孝作、の四名。受賞に反対したのは、佐藤春夫、丹羽文雄、宇野浩二、の三名だった。選評会では決して好評ではなかった。他の候補作が駄作だったことで救われた感もある。
以下、有名作家の選評を略して書きます。
◆石川達三
欠点はたくさんあるが、推すならこれだと決めた。作者の倫理観や美的節度など問題がある。しかし、如何にも新人らしいところがいい。この人は今後、駄作をいろいろ書くかも知れないが、駄作、大いに結構だ。傑作を書こうとすると萎縮してダメになる。
◆井上靖
私の好みの作風ではないけど、のびのびした筆力、作品にみなぎるエネルギーなど、小気味いいものだ。今後もいろいろ批判されるだろうが、青春文学の佳品を見せてもらいたい。
◆川端康成
ほかに推したい作品がないので「太陽の季節」を推す選者に追随した。ただし、石原氏のような若い才能を推賞するのは大好きだ。一方、この作品ほど欠点を指摘しやすい作品はない。極論すれば若気のでたらめともいえる。
◆舟橋聖一
ほかの作品は「太陽の季節」に比べると見劣りがした。私がこの作品を推したのは、一番純粋な「快楽」と真っ正面から取り組んでいる点だった。道徳派の人間は快楽とは常に金の力で得られるものと決めているが、これは間違いだ。
快楽=不義、不純ではない。
今から66年前・・こんなカメラを使っていた
「太陽の季節」が掲載された「文藝春秋」誌、昭和31年(1956年)3月号の誌面。注目は左のカメラの広告で「蛇腹式」と呼ばれた、こんな全手動式カメラが普通に使われた。価格が10、000円とあるが、当時は大卒の初任給が8000~9000円、高卒は6000~7000円くらいだった。現在の物価に換算するとこのカメラは20万円以上の値段になる。