この本を読んだ人のほとんどはインドという国が嫌いになるのではと懸念する。好きになる人はゼロでせう。その理由がインドの国家的恥辱といえるトイレ問題であります。タイトルの「13億人のトイレ」を具体的に述べるとインド人13億人中、5億人はトイレのない生活をしている。(最新の情報では人口は14億人を超え、中国を抜いて世界一になった)国民の三分の一はトイレなしの暮らしを余儀なくされている。トイレなしの理由は貧しいからである。
世界中から「成長を続ける大国」として認知されているインドが「トイレもない不潔な国」と言われるのは耐えがたい。で、モディ首相は2014年の就任早々「スワッチ・バーラト」(きれいなインド)をスローガンにトイレ普及運動を強力に進めた。汚いインドのイメージを払拭する善政だから国民はすべて賛同し、衛生環境は一挙に大改善されると思われた。
結果は?・・・大失敗ではないけど大成功でもない。本書での感想をいえば「そこそこ改善された」といえる。何もしないよりはマシというレベルだった。私たち日本人はカン違いしている。政府の後押し(補助金支給)で各家庭にトイレをつくるということは水洗便所または田舎では浄化槽つきのトイレをつくることだと思ってしまうが、これは間違い、インドにおいては「くみ取り式便所」をつくることであります。それでも野原の草陰で用を足す天然トイレに比べたら大改善といえる。普及するのが当たり前でせう。
それはヨシとして、コンクリート製の便槽に貯まった糞尿はどうするのか。年配の方ならバキュームカーによる回収を思い出す。アレが定期的にきてくみ取ってくれた。しかし、インドにバキュームカーはありません。自分で処理するのです。(野原に散布して乾燥させる)モディ首相の唱える国民運動「きれいなインド」づくり=各家庭にトイレ設置とはこのことです。
自分でくみ取る作業を嫌悪してトイレ使用をやめ、元の野原天然トイレに戻る人がいる。少しゆとりのある人は人を雇って処理する。誰に頼むのか。インド固有のカースト制度における最下層の人が請け負う。人種差別制度あればこその外注である。これでしか生活を維持できない人たちがいることを考えると暗澹たる思いである。
本書で繰り返し述べているのがインドでは人口の急増と工業の発展のためにすでに水資源が不足しており、早晩、飲料水にも事欠く事態になる。人口の半分が水洗トイレ利用者になるなんて夢のまた夢物語である。人口で一、二位を占める中国とインドが、水資源問題や食糧自給問題で舵取りを誤れば「世界のお荷物」国家に落ちぶれる可能性があります。(2020年kaokawa 発行)