垣谷美雨「七十歳死亡法案、可決」

 こんな小説があること知らなかった。図書館で知り合った人に「これ、どない?」と奨められて拝借した。んまあ、なんとえげつないタイトルでありませう。時の与党が強行突破で可決した「老人は七十歳になったらみんな死んでいただきます」という、とても分かりやすい法律が通った。
 人口の三割以上が老人になり、福祉や医療の費用がどかどか増えて国家の経済破綻が避けられない。日本沈没であります。国民は老いも若きもいっせいに「自分は70歳まであと何年生きられるか」というシンプルな計算をして身構えた。


自分としては、この作品はパロディにしてほしかった。しかし、妙にマジメな、それにしてはスキマだらけの出来映えなので読む方がしらけてしまいます。アイデアは良かったけど作り込みがヘタでB級読み物になってしまった。アニメで表現しても内容の粗雑さは批判されること請け合いです。


タイトルに反して内容はありふれたホームドラマで終始します。老いた姑の介護に疲れた嫁の苦労物語とそれに付随するトラブルばかり。70歳になったら老人はどんな手続き(手段)で命を捨てるのか、といった大事な話がぜんぜん出てこない。老人の恐怖感や若者の心配にも知らん顔です。作者の力量の無さがわかりました。しかし、駄作に終わってよかったと思います。もし、タイトル通りの話を真剣に書いたら著者は、薄情、非常識、とボロクソに非難されるでせう。


かように本書の悪口を書いても、長生き老人が国を滅ぼすというのは架空のドラマではなく、リアルに迫ってきています。もう半世紀くらい昔に「老人は 死んでください 国のため」なんて川柳が流布して顰蹙をかったけど、国民大多数のホンネだと思います。この先、長寿社会=不幸な社会 という認識がじわりと浸透してゆく。さりとて、日本が今から北欧の国のような福祉社会を目指すにはもう手遅れです。(平成27年 幻冬舎発行)