夏目漱石「彼岸過迄」を読む

 昨年夏にOさんから頂いた「夏目漱石を楽しむ」という本がきっかけになって、このトシで漱石再入門です・・と言えば聞こえが良いけど、半ば、義理読み。いまどき、はてなブロガーで夏目漱石の愛読者なんて10人くらいしかいないような気がします。


 とっかかりに「明暗」を手にしたところ、わ、かなわんなあという、なんか拒絶感みたいなのが起きて出直し、あらためて、この「彼岸過迄」を選びました。岩波書店版で無論、現代かな遣いです。


正直言って、これも読むのに苦労しました。文体や語彙が難解だからではなく、ストーリーの展開がもたもたしてるからです。現代作家の文章に慣れているものには十分イライラさせるスローモーな進行で、中頃まではひたすらガマンしつつ読みました。「草枕」ファーストシーンのカッコイイ書きだしに比べたら雲泥の差で「さっさと先へ進まんかい」と尻を叩きたくなります。純文学的に吟味しつつ読むファンはともかく、自分みたいなB級読者の大半はスイスイ読めないのではと勝手に想像します。


内容は、Kという男が、青年期から経験する複雑な人間関係を軸に、短編を組み合わせるように構成されたものですが、主題は「嫉妬」であります。漱石が書きたかったのは「嫉妬」の表裏です。このテーマへの執着ぶりが文に表れていて、これはこれで読み応えがある。嫉妬を素直に表現すればブンガクにならないから、ねじり、ひねくらせて葛藤に苦しむ場面を延々と書く。ヘタな作家なら説得力、表現力不足で行き詰まるところ、飽きさせずに読者を吸い付けておくところが漱石たるゆえんでありませうか。一行書くのに、如何ほど呻吟したのだろうかとB級読者は半ば覚めて読んだのでありました。(2008年9月 岩波書店発行)

 

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