藤田孝典「棄民世代」

 10年以上前?「下流老人」という本を著した人が、この本ではかの「氷河期世代」の困窮ぶりを調査し、問題提起した本。読めば問題の深刻さに気が滅入ってしまうのですが、さりとて「こんな施策で解決できる」という提案もない。せいぜい小泉純一郎竹中平蔵を恨むしかないのであります。


前世紀末に雇用に関する規制が緩和された結果、企業には甘く、労働者には厳しい<就職氷河期>という社会的困難が生じた。一方で雇用の自由化に乗じて就職斡旋外社がドカドカ生まれ、一部は大企業にまで成長した。このシステムを主導した一人が竹中平蔵である。政府中枢のメンバーであった竹中は待ってました、とばかり就職斡旋大手の「パソナ」のトップに転職し、甘い汁を吸い続けている。弱きをイジメ、ワルにすり寄る江戸時代の悪代官をどどんとスケールアップしたような人物だ。


書名に「政府に見捨てられた氷河期世代が日本を滅ぼす」という副題がついている。ン百万人の困窮世帯が中年から高年、退職後まで困窮のままだと国家の負担が大きくなりすぎて、ヘタすれば経済的破綻を起こしかねないという。
 氷河期世代のとらえ方は幅広いが、大卒・高卒の新規就職者でみれば、概ね、1993~2003年に就職活動した数百万人と、同時期に転職した中高年約2000万人が対象になる。日本の総労働者数の3割以上が「氷河期」を体験している。これらの人が2050年には退職時期を迎える。


具体的に何が問題なのか・・・
・    氷河期世代は老後の年金が期待できない
・    なのに国保の保険料や介護保険料は上がる
・    40代の4人に一人は貯金ゼロもありうる
・    貧しくても長生きしてしまうリスク
・    親の介護問題
・    最後の頼みは生活保護・・


数年前、ある役所が公表した「老後2000万円問題」を覚えていますか。65歳で定年になった夫婦が月額21万円の年金を受けながら暮らすと標準生活では月5万円の赤字になり、退職後20年では1300万円、30年では2000万円が不足するという。役所自ら発表したため、年金をアテにしたら生活できないのかとボロクソに批判された。


しかし、これは最高に恵まれた受給者の例、すなわち、40年間きっちり年金を納付した人の話である。こんなの氷河期世代にはほぼあり得ない。月額21万円の支給額も夢のような高額だ。年金の滞納も普通にあるのがこの世代である。40~50歳代で貯金額が100万円未満というのは自分の経験から言うと恐怖を覚える少なさである。そんなときに親の介護問題が生じたら・・。仮定の話ではなく、現実に起きている。親の年金と自分の給料を合わせてかろうじて暮らしてるというのも普通にある話で、貯金どころではない。


かように氷河期世代の生活は厳しい。なのに昨今はAIが進歩してさらに圧力をかける。国が無為無策を続けると、たとえば、ベーシックインカムなる思想が議論されるかもしれない。根がマジメな日本人には似合わないけれど、議論する価値はありそうな気がします。(2021年 ソフトバンククリエイティヴ発行)