大小を問わず書店経営のしんどさは全国共通 になっているなかで北海道砂川市の岩田書店のユニークな「一万円選書」は販売方法として定着した・・という「地味なニュース」が新聞でハデな記事になっているのでご紹介。
9月5日の産経新聞朝刊の一面と最終面(大阪版・社会面)で「カルテから導く運命の一冊」「本は人生の味方 心通わせ」なる見出しで岩田さんの奮闘ぶりを伝えています。(クロッシングというタイトルの特別記事です)
この一万円選書のアイデアは岩田さん自身の発想ではなく、昔、高校の先輩と酒場で呑みながら経営のしんどさを愚痴ってる場面で先輩から一万円札を渡され「これで俺が面白いと思う本を選んでくれ」と言われた。ガガ~~ン、これが発端であります。客が読みたい本を店主が選ぶ・・と書くのはカンタンだけどものすごいプレッシャーです。しかし、岩田さんには年間150冊の本を読みこなしてきた情報の蓄積がある。そして常に「この本をぜひ多くの読者によんでもらいたい」を自覚してきた選択眼もある。売れ筋の本をメインに扱う一般書店とは全く異なる発想で本を仕入れてきた実績が俄然チカラになった。
・・とはいうものの、一万円選書が最初から当たったわけではない。平成19年からはじめて7年間に注文をくれたのはたったの50人。いよいよ廃業を覚悟した26年にテレビ朝日の深夜番組が取り上げてくれたことが逆転のきっかけになった。「一万円選書」大躍進スタートです。よくぞ耐えましたねえ。
大成功にはもうひとつ岩田流「カルテ」と称する読者アンケートがあってここに書かれる個人情報が本選びの大事なネタになる。しかし、お互い、知り合いでも友人でも無い。単なる客と書店主である。この距離感がとても大事でベタな義理人情が介在しないゆえに自由な本選びができる。やがて万単位の個人情報の蓄積によって短い文章でも読者の人柄が伝わる術を得た。実際、ハズレが少ないことが多くの顧客獲得に役立っている。
これまで岩田さんが「一万円選書」で取引した顧客は1万3千人以上、単純に計算したら「選書」の売り上げだけで約1億3千万円。顧客の何割かはリピーターになるので安定感も抜群です。但し、岩田さんの選書能力にも限度があるから申込み者のうち、毎月100人を選んで選書、発送しているそうだ。これでも結構きつい仕事ではと想像します。
岩田さんの大成功をみて他の書店オーナーも奮い立ったかも知れないが、残念ながらマネできるオーナーは皆無でせう。仮に同じ能力、同じサービス精神を有した人がいたとしても所詮は二番煎じ、尊敬どころか、逆に見下げられるかもしれない。いま、岩田さんは「日本一幸せな本屋」だとしみじみ感じている。ただ今62歳、まだまだ多くの人に良い本を届けることができる。書店業界では岩田さんがオンリーワンの成功者で終わると思います。成功例はたちまちコピーされてしまうというビジネス世界の常識が通じないのが愉快で頼もしい。
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