出口治明「還暦からの底力」を読む

 京大法学部を卒業、日本生命に34年勤め、幹部に昇進して退職・・という経歴から想像するエリートサラリーマン像を見事に転覆させるのがこの人の魅力です。副題に~歴史・人・旅に学ぶ生き方~と記すように会社のトップに上り詰めて達成感を味わうようなタイプとまったく違う。


2018年に日経が掲載したイジワル記事を引用して経済界の牽引役を自認する経団連のオッサン、ジジイを痛烈にこき下ろした。(51ページ)
 記事タイトルは「経団連、この恐るべき同質集団」で経団連の会長と副会長、計37名の経歴を調べ、彼らの「同質集団」ぶりを曝した。

・全員男性で女性はゼロ人
・全員日本人で外国人はゼロ人
・一番若い副会長で62歳、50歳代はゼロ人
・起業家もプロ経営者もいない
・全員、転職経験が無い

こんな連中が日本経済を支配している。とりわけ情けないのは4~5番で彼らはしょせんサラリーマンの延長でトップになっただけで、会社のトップであっても経済界のリーダーとしては全くの噴飯モノ、無能人間だと。生涯、一つの会社にしがみついてどうするのだ。GAFAのリーダーと比べてみよ、と。出口センセ、経団連の面々には蛇蝎のごとく嫌われているにちがいない。
 ・・のであれば、昔、城山三郎が小説ふうに描いた日本のトップ経営者の活躍ぶりも、出口センセに言わせれば、しょせん二流人物記でしかないのか。ま、時代が違いますけどね。


人は何のために働くのか。好きなことをするために働くのだ。これが出口流人生哲学であります。なのに、世間には食うための労働だけで生涯を終える人がいる。働いて働いて・・年老いて、気がつけばあの世が迫っていた。こんな人生でいいんですか? ハイ、いいんです、という人が少数ながらまだ存在する。生きる=苦行ナリ。それも立派な哲学かもしれないが、その前に、単に遊び方を知らないだけだったりして・・・。


常に「楽天主義」を唱え、実行してきた出口センセでありましたが、昨年、脳出血に見舞われ、半身不随、言語機能消失という重篤な状態になりました。これでさすがに参って引退と思っていたところ、パンパカパ~ン、車いす生活ながら現役復帰だそうです。学長を務めていたAPU(立命館アジア太平洋大学)の仕事にも復帰というから元気すぎる?後期高齢者です。こんな大きなハンディを負ってもなお前向きに生きる。生きてりゃ楽しいことがあるはず・・。
 凡百の人生ハウツーものを読むより、これ一冊で発想の転換、前向き思考のヒントをもらえそうです。先月紹介した江上剛「50歳からの教養力」の10倍役立ちます。市場でも好評で20万部くらい売れたそうです。(2020年 講談社発行)