中村文則「土の中の子供」を読む

 2005年度の芥川賞受賞作品。こんな作家がいたこと知りませんでした。本書の受賞理由はよく分からないけど、ミもフタもない言い方をすると、全編約100ページのうち、20~30ページは暴力シーンであります。それを精一杯文学的に表現した作品、が自分の感想、評価であります。それはヨシとして、いま「発達障害」(文春新書)という本を読んでるところなので、この作者はASD(自閉症スペクトラム障害)に違いないと勝手に決めつけてしまいました。中村センセ、スミマセンです。


「暴力シーンを文学的に表現」の見本をあげると、44ページ「まるで喜びを身体全体で表現しているかのような、両手を挙げた仰向きのヒキガエルが、アスファルトの上で平らに潰れていた」・・目のつけどころがシャープでしょ。さらに、本の表題「土の中の子供」は、主人公が実の父親に土に埋められて殺害される場面を表している。我が子を虐待した上、土に埋める場面であります。


有り体に言うと、暴力シーンを描くならマンガのほうがリアルに表現できる。それじゃブンガクの負けです。なので、著者はボコボコにやられる側の人間の内面(恐怖心や絶望感)を文字で描写する。その文章表現力こそ文学ならではのワザであります。文章がヘタなら普通のSM(サド・マゾ)趣味読み物になってしまいます。


読み終わって、著者の別の作品も読みたいかといわれると、いや、もう結構でございます。100ページの短編一つで中村ワールドは十分楽しめました。こんな小説を続けて読んだら頭おかしくなりそう。(平成20年新潮社発行)

 

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