NHK「日本人のお名前」の常連ゲスト、森岡センセの著書。この本は、従来のように家系(系譜)をさかのぼる時間軸の研究ではなく、地理的分布を主にした調査の成果なので、地理好きには楽しく読めます。田中さんや佐藤さんといった名前がなぜメジャーなのか? そーゆーことだったのかと腑に落ちる。なかなか説得力のある研究成果です。
日本一多い名字は佐藤さん、二番目は鈴木さん、三番目は高橋さん・・・
全国調査の結果はこの通り。しかし、関西人は「ちゃうやろ、それは」って思いませんか。全国の統計では上記の通りですが、関西では田中さんと山本さん、それに井上さんが断然優位。では、東京、神奈川ではどうか。鈴木さん、佐藤さん、高橋さんの順です。日本の東と西では名字の分布が大きく異なるってことを知りました。土着性が薄れ、人の移動がずいぶん盛んな現代でも、地域性が色濃く残ってることに驚きます。
では、佐藤さんがなぜこんなに多いのか。説明すると長くなるのでヤメますが(おいおい!)カギになるのは「藤」の字です。藤の字がつく最も古い名字はなんでせう。そう、藤原・・藤原鎌足さんですね。ふる~~~。
それがどないしてん、と問われてもまた説明が長くなるので・・。要するに、東日本、とりわけ東北地方には「藤」の字を使う名字が俄然多い。佐藤さんのほか、伊藤さん、加藤さん、斎藤さん、後藤さんとか多々。
あの東北大震災のあと、新聞の片隅にまとめて掲載されてる震災で亡くなられた方の名前を見て、佐藤さんの多いことに驚いたことを思い出しました。
では、東西の境目はどこか。北側では新潟県上越市、あの往来が命がけだったという、親不知子不知 のあるところです。南側は三重県。細かく言うと雲出川流域が境界だという。なあるほど。これって日本の東西文化の境界と似ています。
全国2位で関東の7都県ではトップの鈴木さん。実は鈴木家の総本家は和歌山市の南、熊野街道沿いの藤代神社にあります。それがなんで東日本を制覇したのか。このワケも面白いですねえ・・といって、これも長くなるから説明しない(おいおい!)。
では、日本中まんべんにある名字はなにか。代表は池田さん、中村さんです。なるほどなあ。おおざっぱに言えば、東日本には名字の種類が少なく、西日本は多い。これは、中世~近代の人口や人口密度の多少が影響しています。人が多いと名字を増やさないと混乱するからです。納得!。
著者が長年研究しても未だに解けない謎がある。東と西では名字の字画数がえらく違うと言うのです。西に多い、田中さん、山本さん、井上さん・・ほんと、書きやすい。もしや、西の人間は面倒くさがりやが多いのか。この駄目男説はウソです。それはともかく、田んぼの田、山、井戸の井、と地形や自然の事物を取り入れた名前が多い。池田、中村も同じです。
名字が広く使われ出したのはいつごろか。平安時代後期から鎌倉時代に普及したそうです。武士の台頭が名字を広めた。名前を名乗れない武士なんてカッコワルイし。馬上、刀を振り上げて「我が輩は田吾作じゃ~」ではすぐやられそう。学校では「武士以外は名字を名乗れなかった」と教えられたような気がするけど、名字はあるけど公に名乗れなかっただけで、庶民みんなが田吾作だったのではない。坂本龍馬だって、実家は商家だったし。小林一茶も、本業は農家だったはず。
最後に、本書の78頁に掲載されてる、とてもシンプルにしてイージーな名字の付け方例を紹介しませう。本家が杉本さんというのですが、その分家は単純に本家との位置関係だけで、東さん、西さん、南さん、北さんという名になりましたとさ。石川県能美市での実例です。(2011年講談社発行)
これ、ホンマか? 本家、杉本さんと分家の位置