文化勲章受章作家、田辺聖子サンが集めた川柳傑作集。何かとストレスの多い人におすすめの軽~い本でおます。聖子さんも鼻唄歌いながら執筆したのではないかと思うくらい。作者の大方は戦前派か戦中派ではないかと思われます。聖子サンがしっかり選んだ秀句の中から、さらに駄目男が好みで選んだものを紹介しませう。
何がおかしいとライオン顔を上げ
この句の何がおかしいかワカラン人は、以下、読むに能わず。
なんぼでもあるぞと滝の水は落ち
なんぼでも、という方言を、いくらでも、という標準語に変えると面白さ半減します。しかし、滝の水を擬人化するなんて、すごい発想です。
このご恩は忘れませんと寄りつかず
大きな恩のある人の家って、意外に行きにくい、ホンネをいえば行きたくない。でも恩は十分感じている・・。分かりますなあ、この気持ち。
酒ついであなたはしかしどなたです
あります、あります、こういう場面。酒場でとなりのオッサンと打ち解けて、大いに盛り上がったところで、へて、なんやねん、このオッサンは、と我に帰る。相手も同じようにシラケたりして。
心中はできず勘定して帰り
切羽詰まって心中するつもりで出かけたのに、ええ場所見つからへん。うろうろしてる間におなか減って、ほなメシでも食うかと。あかんたれやなあ。
大日本天気晴朗無一文
川上三太郎という人の作で、田辺サンはこれぞ最高傑作としている。漢字ばかり並べて気宇壮大なシチュエーションをつくって、最後にストンと落とす。お見事というしかない。
大正は蓋の裏から食いはじめ
昭和生まれでもやってますがな。もったいないと蓋の裏のご飯粒を丁寧にこそげて食べ、しかし、最後は平気で食べ残す。これぞB級貧乏性なり。
年というものは畳の上で転け
ジッカ~ン、であります。畳の縁の3ミリほどの段差につまづいて転ける。それで骨折する人もいるから笑い事ではありませんが、とりあえず笑ってしまうのが正しい反応でありませう。(2008年12月 集英社発行)