村瀬孝生・東田勉「認知症をつくっているのは誰なのか」

 介護のプロ二人の対談集。このブログの読者に当事者はおられないと思いますが、身内や知人に認知症の方おられるかも知れません。dameo は明日にも発症するかもしれない。意味不明な文を書きはじめたら「やっぱりな」と疑って下さいまし。本書は弱視者用の大活字版なのでとても読みやすい。


書名「認知症をつくっているのは誰なのか」という問いに答えるような各章のの見出しは下記の通り。

1・介護保険制度と言葉狩り認知症をつくっている。
2・あらゆる形の入院が認知症をつくっている。
3・厚生労働省のキャンペーンが認知症をつくっている。
4・医学界と製薬会社が認知症をつくっている。
5・介護を知らない介護現場が認知症をつくっている。
6・老人に自己決定させない家族が認知症をつくっている。
7・本当の介護は薬や抑制で老人を認知症に追い込んだりはしない。


この7項目を見るだけで認知症と介護問題の実情が想像できます。両親などに「認知症?」の事態が起きたとき、たいていの人は「病院で診てもらう」を選びますが、予備知識がないと医師の診察結果や処方を鵜呑みにしてしまう恐れがある。できれば、診察と同時にこの本のような、認知症への視点が異なる情報を知っておくほうがよいと思います。
 視点が異なる・・本書の著者は医師ではなく、現職の介護職です。上記の7項目は介護職の立場で見た治療や介護の実情を述べたものです。のみならず、村瀬氏は自ら福岡で「よりあい」という施設をつくり、身体拘束や薬漬けをしない、ソフトな介護生活を模索、実施している。老人に寄り添うと言う点では
大病院や精神科医師による治療、指導にくらべてずっと穏やかな接し方をしています。7項目では、医師やお役所への批判だけでなく、介護業者や患者の家族にもきつい批判の言葉がありますが、すべて自らの経験、調査に基づく意見です。


厚労省の予想では、2年先の2025年には認知症患者が700万人に達すると。老人の5人に一人くらいはボケますよという。なぜ、そんなに増えるのかという問いの答えは「長生きによる老人の増加」で納得してしまいますが、実は隠れた問題がある。身体が弱って暮らしに支障が生じると家族は介護保険の申請をします。細かい問答があって役所が介護の等級を判断するとき「認知症の懸念はありますか」も訊かれる。本当は「無い」けれど、「ある」と答えた方が当然介護は手厚くなる。だったら「ある」にしておこう。本人も家族もこれがベターと判断する。こうして新しい認知症患者がカウントされる。2025年に700万人の認知症患者、の統計にはこんな架空?の患者も含まれるというワケです。国家規模のデータと個人事情のあいだにはこのようなズレ、誤認がある。家族の安易な判断がボケ老人の数を増やしてるという実例です。(2018年 SBクリエイティヴ発行)