養老孟司「まる ありがとう」

 解剖学者、養老センセ宅に18年飼われた猫、まるへの追憶エッセイ。一般人が書けば目いっぱいセンチメンタルになりそうなテーマですが、そこは学者、哀しみをセーブしてクールな「観察」記にまとめています。100枚以上ある写真は秘書の女性が撮影したものだけど、まるへの慈しみの気持ちはセンセと同じでとても上手、さらに、センセの文章と秘書さんの写真をハイセンスに表現した編集者?さんの功績も大で6万冊を売り上げた。もし、まるの写真がヘタクソで、編集が粗雑だったら売り上げは半減したと思いますよ。本は見栄えも大事であります。


まるはスコティッシュフォールドの雄。名のごとくスコットランド原産で耳が折れているのが特徴。四肢は短く体型はずんぐりしていておっとりした性格。この体型と性格が養老センセと似ている?ために相性がよく家族のように可愛がられた。ゆえにまるの死は老境のセンセに辛かった。


まるの死にかこつけてセンセはつぶやくように人生哲学を説く。なぜか釈迦も登場して<生老病死>の由縁を書く。人間に生まれた限り、この悩みは必然であり、だから哲学や宗教が生まれた。では、猫はどうなのか。テツガクなんかありませんね。しかし、死に際しては「経験したことのない身体の不調」を感じるかも知れない、が、それで一巻の終わりであります。嗚呼、猫が羨ましい。生まれ変わったらまる二世になりたい・・は dameo の願望であります。


ここから話は脱線します。まるは骨壺に納まってセンセの手元に大事に保管されている。しかし、巷には食うや食わずの野良猫も相当数いる。また、カラスや鳩や雀といった野鳥がたくさん都市に住んでいるけど、寿命を終えたあとの「身の始末」をどうしているのか。これを想像したことありますか。答えを言える人はいないでせう。


自分の経験でいえば、野良猫の白骨遺骸は生涯で2,3回しか見たことがない。自然死したと思えるカラスやハトの遺骸は一度も見た覚えがない。なんで?・・。海で魚やクジラが死んだときは他の魚などの食材になって消えることは誰でも知っているけど、陸上の動物たちが死んで一週間で他の動物や虫に食べ尽くされるとは思えない。だったら当然、人に見つけられる、または悪臭を放って迷惑を被る場面が日常的にあるはず。しかし、そんな経験皆無でせう。
 誰も関心をもたないためか、これを説明した本は見つかりません。(しっかり探せば見つかるかも)増えすぎて問題になっているイノシシや猿も大半は老衰死するので、山中のあちこちで目にするはずですが、老衰死のイノシシを見た人がたくさんいるとは思えない。この単純な疑問、子供じぶんから解けないままです。(2021年 西日本出版社発行)