内館牧子「毒唇主義」を読む

 先月紹介の「すぐ死ぬんだから」に続いて読んだ内舘作品。これは週刊誌や会報などに書いたエッセイ、コラムをまとめたもの。著者、編集者にとって一番楽ちんな本作りかもしれません。そのせいか?表紙裏の著者紹介文で三菱重工を「三菱重厚」と誤植している。油断しちゃいました。


自分はテレビドラマを全く見ないので内舘牧子の名前は知っていてもドラマ作品は見たことがない。で、とりあえず内舘センセのプロフィールを探ってみると・・。
 1948年、秋田生まれの東京育ち。武蔵野美大造形学部卒。なぜか三菱重工で13年もOL生活を続けたのち、脚本家めざして退職。メシの食えない日々が続いたが、かの橋田壽賀子との出会いがあって芽が出、プロへの道が開けた。一般には脚本家として名高いが、著書も50冊くらいあり、いまや悠々自適の暮らしであります。


ケータイもたず、原稿は手書き
 長いOL生活の経験があり、名が売れ出したのは40歳くらいだからワープロ使用が普通だと思うけど、原稿書きは6Bの鉛筆で手書きであります。さらに、ケータイもスマホももたずを貫いている。情報の収集より遮断のほうが大事という考えらしい。しかし、多忙なこと人並み以上だから「秘書」を雇っている。不便さの穴埋めは「金力」で賄う。金持ちならではの発想であります。


横綱審議委員会のメンバーに
 生来のスポーツ好きなので(但し、観戦するだけ)いろいろのご縁、人脈のからまりで女性では初の「横綱審議委員会」の委員になった。しかし、相撲大好きだからというだけでこんな重い役目は担えない。そこで、相撲を本格的に勉強しようと東北大学大学院に入学、成果を論文にまとめて修士号を獲得した。好奇心が強くて、勉強が好きで、その上、表現力はプロ、だからオバサン大学院生はぜんぜん苦にならなかった。


女性も土俵に上がらせろ・・にキッパリ反対
 2000年ごろ、大阪府の知事が太田房江氏だったときに、大阪場所の優勝力士表彰場面で自分も土俵に上がって力士を顕彰したいと希望した。しかし、相撲協会が断って願いは叶わなかった。このとき、世論でも賛否両論があって概ね半々くらいだったような気がする。
 しかし、内舘センセは明快に反対の立場をとった。次元の低い男女平等論でしかない、と切り捨てたのであります。 dameo もこの考えに賛成であります。こんな平等論を認めたら、歌舞伎に女優の参加を許さなければならず、宝塚音楽学校に男子生徒の入学がOKとなる。アホらしくて議論する気にもならない。


横綱 朝青龍の天敵になる
 本書を読むと、内舘審議委員は外国人力士のほぼ全部が嫌いだったと思われ、特に朝青龍のマナーの悪さ、品位の無さには批判を通り越して怒りを覚えていた。クビにしてモンゴルへ追い返せ、という心情です。むろん、部屋の親方への眼差しも厳しかった。しかし、審議会では多勢に無勢、内舘センセの要望は何一つ叶えられなかった。


作家兼脚本家はおいしい仕事?
 読み終わってつらつら考えるに、内舘センセのような二刀流の仕事は「多忙」という難儀はあるにせよ、長い目でみれば経済的に有利な仕事ではないかと思います。優れた文学作品がロングセラーになって何十年も印税収入をもたらすように、優れた脚本の映像作品は再放送があり、また、ほぼ同じ内容でリメイクされるとその都度著作権が発生する。こういう創作作品はAI時代になっても長生きします。歌謡曲のメロディ資源が枯渇してしまったように、ドラマのネタもいずれは枯渇する懸念があることを考えたら、死後50年間は有り難い遺産として役立つ・・ま、勝手な想像ですけどね。(2014年 潮出版社発行)

 

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