佐藤 優「友情について」を読む

 興味をもったら書かずにはおれない・・は作家の因業かもしれないが、この本で「書かれた」のは著者の高校時代の友人、豊島昭彦さんであります。豊島さんは県立浦和高校から一橋大学を経て日本債券銀行(現在のあおぞら銀行)に就職、二度の転職を経てまもなく定年というときに難病、膵臓ガンが見つかった。


二人はかれこれ40年くらい付き合いが途絶えていたが、手紙のやりとりや会食でかつての友情が蘇り、佐藤センセは豊島さんの難儀を憂慮しながら、少しでも元気づけるために交友録を綴ることにした。そして、豊島さんにも仕事や人生を振り返るレポートを書くように薦める。こうして本書が生まれた。


それはヨシとしても、読者としての率直な感想をのべれば「なんというお節介な著作物」の思いが強い。豊島さんを元気づける意図で書かれた本なのに、実際は佐藤センセの回顧録みたいなつくりになっている。豊島さんが勤務した日債銀の内情などは大方佐藤レポートであり、そこに自分の職歴や人生経験を重ねて書いている。本来は豊島さん自身が書くべき経験を佐藤センセがゴーストライターのようにリアルに書いている。(豊島さんの健康状態は執筆に支障なかったにも関わらず)


・・・ということがさすがに気になったのか、著者は本書の結びでこう書いている。「豊島君について公の場で語れることは本書にすべて盛り込んだ。ただ、本書を書きながら、常に悩んだのは、死期が迫った友人を、自分は作品の対象として利用しているのではないかという自責の念だ・・」とハンセーしておられます。


最後に佐藤センセは豊島さんに、これまでの人生を振り返ってとくに重要だと思う事柄を整理して8項目を挙げてもらった。

1・(人生は)こんなもんだと思うこと

2・仕事以外に自分の生きる目標をつくる。好きなこと、やりたいことを見つ  けること

3・(大ピンチであっても)いい経験をしていると思うこと

4・人的ネットワークを作ること

5・目標となる人をつくること

6・チャレンジ精神をもつこと

7・自分の座標軸を見失わないこと

8・一喜一憂しないこと

 全面的に異議ナシであります。なお、豊島さんは作家になりたいという願望も持ち続け、「湖北残照 歴史編」「井伊直弼と黒船物語」などを出版されたそうです。豊島さんが一日でも長く生き、活動されますようお祈りします。(2019年 講談社発行)

 

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◆琵琶の演奏会を鑑賞

 邦楽の演奏会で唯一未経験だった琵琶の演奏会が国立文楽劇場で催されたので出かけました。「錦心流琵琶 如月一門会」というアマチュアの皆さんの発表会です。語りと琵琶の演奏を一人でこなすので習得は大変だと思います。


想像では歌唱より琵琶の演奏のほうがずっと難しいだろうと思ってましたが、実際は琵琶演奏でトチる人はいなくて、皆さん音程をはずすことなく素敵な演奏を披露されました。幅広の撥(バチ)で弦を弾くだけでなく、コスるワザが魅力的で琵琶らしい情感はこの技術あればこそでしょう。


演奏は一人10分くらい。演目の半分くらいは謡曲の転用で「安達ヶ原」「景清」「勧進帳」「道成寺」など、昔、能舞台で鑑賞した曲の一部でした。琵琶ならではの寂寥感のある演奏はコンクリートのホールではなく、古民家や和風旅館の部屋で10人くらいで鑑賞するのがベストかもと想像しました。(2月6日 国立文楽劇場小ホール)


ホールロビーの文楽の大きな頭(かしら)もマスク着用中です。

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