「日本を壊す政商 パソナ南部靖之の政・官・芸能界人脈」を読む

 この本を読んだ人は全部「パソナ」と「南部靖之」が嫌いになる。なぜなら、悪口しか書いてないから。人材派遣業というビジネスについては知識も興味もなかったので、内容によっては途中でやめようと思ったけど、政財界裏話ルポとして週刊誌を読む感じで完読した。著者、森功のスタンスは明快に南部靖之嫌いであり、派遣業界成功者として尊敬の眼差しはない。


働き方改革として人材派遣の制約がゆるくなり、対象が製造業まで適用されるようになって派遣社員は一気に増えた。この先、定年まで正社員の身分で働くなんてもうあり得ない。それは仕方ないとしても正社員が派遣社員になると大巾に給料が減る。派遣会社の経費がかかるから当然である。では派遣会社がボロ儲けしているのかといえば、そうでもない。パソナの利益率は1%台である。


かくして「働き方の自由化」で誰が、いかほど幸せになったのか。被雇用者のほとんどは幸せを実感していないのではないか。そんな薄給サラリーマンを踏み台にして南部靖之は金も女も自由に使えるトップに成り上がった。こんな男が好かれるはずがない。


俗物が支配する会社
 本書ではパソナや南部社長の経営理念が語られることがない。いかに政界、官界に金をばらまいて取り入り、人脈をつくってゼニ儲けにつなげるかという話ばかりである。南部社長の人格上の一番の欠点は「世間でちやほやされることが生きがい」みたいな俗物精神だろう。本来、地味なビジネスのはずなのに、接待専用の施設<仁風林>(にんぷうりん)をつくって政財界から有名芸能人まで招待して、夜、昼パーティを催すのが南部流ビジネスの根幹である。


人脈を築くためには金がいる。大っぴらにできない金使いは裏の金脈が必要なので怪しい人物と付き合わざるを得ない。そこで、中江滋樹とか懐かしい名前(平成生まれの人はしらないかも)や暴力団とか・・。
 人脈作りでの大成功は竹中平蔵パソナの会長に迎えたことだ。世間の一部では蛇蝎のごとく嫌われている竹中氏を取り込んだことでどれほど仕事がやりやすくなったか。もっとも、竹中氏が南部社長をどれだけ信用しているのかは怪しいけど。巷の労働者にとっては「悪のコンビ」に見えるのではないか。


歌手ASKA逮捕事件
 南部社長のゴマスリ作戦は概ね成功していた。しかし、2013年、大事件が起きた。社長主催のパーティにたびたび参加していた有名歌手ASKAが覚醒剤事件で逮捕された。その現場が愛人の翔内香澄美のマンション。彼女はパソナの社員だった。さらに彼女は社長の大好きなパーティの専門担当者であり、社長が自慢する部下だった。パソナには社外から招くパーティ客に接待専門の社員=ホステスがいた。パソナとはそんな会社なのだ。彼女が社長の愛人でもあったのかどうかはわからないが、裁判では執行猶予つきの有罪判決が下った。


この事件でさすがにハデな接待ビジネスはできなくなった。企画しても誰もよりつかない。だからといって南部社長は大ハンセーしたとは書いてない。持って生まれた性格はそんなにたやすくは変わらない。
 

落選議員を金で釣る
 パーティは自粛しても金のばらまきは続く。選挙で落選して金に窮している元議員に近づき、ウチの顧問になりませんかと誘う。月給50万円、年間600万円でどない? しかも、相手は与党、野党関係なしである。汗水流して年収300万円のサラリーマンがわんさといるのに、実務なしで600万円支給する大判振る舞い。もちろん、社長の一存で決める出費で、これも「交際費」なのか。


秘書室は美人揃い
 社内結婚はどこにでもあるが、パソナの場合、女性社員が社長のゴマスリ相手と結婚するケースが多い。その見本が国民民主党前原誠司議員だ。彼は女性社員に一目惚れして結婚した。金で釣るよりずっと安全なパソナ応援団づくりである。少なくとも前原氏はパソナに楯突くような振る舞いはできなくなった。前原夫人も美人であるが、社長秘書室の女性は社長好みの美人がそろってるらしい。Nは京都宮川町の芸者上がりだし、Yはミス・インターナショナルコンペの優勝者という具合。人材派遣業の経営者がこんな仕事ぶりでいいのか。


著者が繰り返し述べているように、南部社長はパソナの将来においてどんな理念で経営したいのかイマイチ分からない。人脈づくりの上手さでは成功してきたが、それは社長自身の人柄のおかげで、代替わりしたあとも維持できるかどうか分からない。淡路島に本社機能を移すとかという施策も本気なのか不明である。「政商」と言われた人物は政財界ににらみが効く重量感があった。パーティでちやほやされるのが生きがいという軽薄人間を「政商」とは言わない。(2015年 文藝春秋発行)

 

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