「アスペルガーと知らないで結婚したら とんでもないことになりました」

 野波ツナ著。内容はこのタイトル通り。あまりにわかりやすすぎて「以下省略」完。にしてしまいそう。しかも漫画だから子供でも理解できる。いっぽう、なにげに「カサンドラ症候群」という聞き慣れない言葉がでてくるのに説明一切なしであります。


表紙を見て最初に感じたのは、このタイトルってアスペルガーの人への差別や排除になるのではという危惧です。問題ないのかなあ。アスペルガーについては昨年9月に岩波 明「発達障害」という本の感想文を書いているので症状のあらましは理解していますが、この本はアスペルガーと気づかずに結婚した奥さんのレポートだから、知識の理解ではなく、生活実感としてモロに伝わります。箸の上げ下ろしのような細部の説明が繰り返される。ASDの啓蒙という点でとても役立つ本です。


著者が彼と結婚したときは世間でようやく「アスペルガー」なる障害が認識されたくらいに歴史が浅い。ほんの10年くらい前まで「発達障害」は子供の問題だと思われていた。実は大人にも発達障害があるとわかったのは最近だから世間に知識が行き渡らず、当事者だけが苦しんでいたのが実情といえます。


よって、著者も彼のヘンな振る舞いや嗜好を個性だと思っていた。ささいな欠点をカバーするくらいの魅力があれば問題なしと考えた。しかし、結婚して家庭をもち、子供ができると、世間の常識とのズレが目立ってくる。そんな著者の、他人には言いにくい悩みや不満にさいなまれることを「カサンドラ症候群」という。アスペルガーによって引き起こされるもう一つの病であります。


結婚相手がアスペルガーだったのは不運かもしれないが、著者の生業が漫画家というのはとても幸運だった。過去10年ほどのあいだに7冊もの漫画本を出版してアスペルガーが大人の障害であることを啓蒙している。文字だけの本に比べて表現がうんとソフトだから読む人の深刻度を柔らげることができる。この先も著作を続けたらアスペルガー情報の発信者として世間で役立つ。不運を幸運にチェンジできる役目を担うと考えれば、良い意味での「とんでもないこと」が起きるアスペルガーライターになれます。(2017年 コスミック出版発行)

 

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